組織サンプルからクロスリンククロマチンを調製する場合、組織の種類によってクロマチン収量が大きく異なります。下記の表には、4 x 106個のHeLa細胞の場合と比較しながら、25 mgの組織から調製した場合に予想されるクロマチン収量と、予想されるDNA濃度を示しています。これらの数値は、プロトコールのセクションIVに記載した方法で決定しています。
最適なChIPの結果を得るためには、免疫沈降1回あたり5 - 10 µgの断片化したクロスリンククロマチンが必要です。したがって、組織によっては、免疫沈降ごとに必要な組織量が25 mgを超えることがあります。
SimpleChIP®キット | 酵素法 | ソニケーション法 | ||
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組織/細胞 | 総クロマチン収量 | 予想されるDNA濃度 | 総クロマチン収量 | 予想されるDNA濃度 |
組織/細胞 | 総クロマチン収量 | 予想されるDNA濃度 | 総クロマチン収量 | 予想されるDNA濃度 |
脾臓 | 25 mgの組織に対し20 - 30 µg | 200 - 300 µg/mL | NT | NT |
肝臓 | 25 mgの組織に対し10 - 15 µg | 100 - 150 µg/mL | 25 mgの組織に対し10 - 15 µg | 100 - 150 µg/mL |
腎臓 | 25 mgの組織に対し8 - 10 µg | 80 - 100 µg/mL | NT | NT |
脳 | 25 mgの組織に対し2 - 5 µg | 20 - 50 µg/mL | 2–5 µg 25 mgの組織 |
20 - 50 µg/mL |
心臓 | 25 mgの組織に対し2 - 5 µg | 20 - 50 µg/mL | 25 mgの組織に対し1.5 - 2.5 µg | 15 - 25 µg/mL |
HeLa | 4 x 106個の細胞に対し10 - 15 µg | 100 - 150 µg/mL | 4 x 106個の細胞に対し10 - 15 µg | 100 - 150 µg/mL |
NT=未試験
SimpleChIP® Enzymatic Kitのプロトコールにおいて、クロスリンクしたクロマチンDNAを150 - 900 bpに断片化するための最適条件は、断片化に用いる組織や細胞の量に対するMicrococcal Nuclease量に大きく依存します。特定の組織または細胞タイプで、クロマチンの断片化の至適条件を決定するプロトコールを以下に示します。
SimpleChIP®Sonication Kitのプロトコールでは、クロスリンククロマチンDNAの断片化についての最適条件は、細胞数、サンプル量、ソニケーションの時間、使用するソニケーターパワーの設定により大きく異なります。各ソニケーションサンプルについて、100 - 150 mgの組織または1 x 107 - 2 x 107個の細胞を、ChIP Sonication Nuclear Lysis Buffer 1 mLに懸濁することを推奨しています。特定の組織や細胞タイプで最適なソニケーション条件を決定するプロトコールを以下に示します。1X ChIP Buffer + PIC混合液200 μLで核ペレットを再懸濁します。氷上で10分間インキュベートしてください。
注意:最適なソニケーション条件はサンプルの種類や固定時間によって異なります。推奨されるサイズのクロマチン断片を得るために必要な、最小回数のソニケーションを行うようにしてください。長さが500 bp未満のDNA断片が全体の80%を超えるような過剰なソニケーションを行うと、クロマチンに過度のダメージを与え、免疫沈降の効率が低下する恐れがあります。
問題 | 考えられる原因 | 推奨される対処法 |
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問題 | 考えられる原因 | 推奨される対処法 |
1. 断片化DNAの濃度が低すぎる。 | クロマチン調製用の細胞量や組織量が十分でない、または細胞/組織の溶解が不完全である。 | クロマチン調製液のDNA濃度が50 μg/mLに近い場合、1回の免疫沈降あたり少なくとも5 μgとなるようにさらにクロマチンサンプルを追加し、プロトコールに従って実験を続けてください。 |
クロスリンクの前に、別途用意したプレートで細胞数を数え、正確な細胞数を測定してください。 | ||
酵素法: ソニケーションの前後に顕微鏡で細胞核を観察し、細胞核が完全に溶解していることを確認してください。 | ||
2. クロマチンの断片化が不十分で、DNA断片が大きすぎる。大きなクロマチン断片が原因でバックグラウンドが高くなり、解像度が低くなる可能性があります。 | 細胞のクロスリンクが過剰、または用いたサンプル量 (細胞/組織) が多すぎる。 | クロスリンクの時間を10 - 30分の範囲内で短くするか、またはソニケーション1回ごとの細胞/組織の量を減らすか、これらのどちらかもしくは両方を行ってください。 |
酵素法: クロマチンの断片化に用いるMicrococcal Nucleaseの量を増やすか、酵素処理のタイムコース実験を行ってください。 | ||
ソニケーション: ソニケーション処理のタイムコース実験を行ってください。 | ||
3. クロマチンの断片化が進行しすぎている。ヌクレオソーム1個分のDNAの長さになるまでクロマチンを完全に断片化すると、特に長さが150 bp以上のアンプリコンの場合、PCR定量にてシグナルが減弱する可能性があります。クロマチンの過剰なソニケーション処理によって、クロマチンの完全性が損なわれ、抗体エピトープが変性する可能性があります。 | 酵素法: 断片化に加えた細胞数が十分でないか、またはMicrococcal Nuclease量が過剰。 | 酵素法: クロスリンクの前に、組織の重量を量るか、別途用意したプレートで正確な細胞数を測定してください。クロマチンの断片化に加える組織または細胞を増やすか、またはMicrococcal Nuclease量を減らしてください。 |
ソニケーション: 調製条件が厳しすぎる。 | ソニケーション: タイムコース実験を行い、適切なソニケーション処理ができる最低限の出力/処理時間を確認してください。 | |
4. インプットDNAのPCR反応で産物が得られない、または得られる量が非常に少ない。 | PCR反応に使用したDNA量が十分でない、またはPCR条件が最適でない。 | PCR反応により多くのDNAを使用するか、サイクル数を増加させてください。クロスリンクした断片化クロマチンから精製したDNAを用いて、プライマーのPCR条件を最適化してください。 |
PCRの増幅領域が、ヌクレオソームフリー領域に及んでいる。 | アンプリコンの長さが 150 bp未満になるように、別のプライマーセットを設計してください。 | |
免疫沈降に使用したクロマチン量が十分でないか、またはクロマチンの断片化が進行しすぎています。 | 最適なChIP結果を得るために、各免疫沈降あたりクロマチン5 - 10 μgを加えてください。上記1、3の対応策も参照してください。 | |
5. ポジティブコントロールであるHistone H3抗体の免疫沈降サンプルとRPL30プライマーを用いたPCR反応で増幅が起こらない。 | 免疫沈降に加えたクロマチンまたは抗体が十分でない、または免疫沈降のインキュベーション時間が短すぎる。 | 各免疫沈降サンプルにクロマチン5 - 10 μgと抗体10 μLを加えて一晩インキュベートし、Protein G Beadsを加えてさらに2時間インキュベートしてください。 |
Protein G Beadsからのクロマチンの溶出が不十分である。 | Protein G Beadsからのクロマチンの溶出には65℃が最適です。頻繁に撹拌してBeadsの懸濁状態を保ってください。 | |
6. ネガティブコントロールのRabbit IgGの免疫沈降産物と、ポジティブコントロールのHistone H3抗体の免疫沈降産物で、PCRでの増幅が同程度になる。 | 免疫沈降に使用したクロマチン量が過剰、または十分でない。あるいは、免疫沈降に抗体を加えすぎている。 | 各免疫沈降反応に対して加える量は、クロマチン15 μg、Histone H3 antibody 10 μLを上限としてください。Normal rabbit IgG量を一回の免疫沈降あたり1 μLまで減らしてください。 |
PCR反応に加えたDNAが多すぎる、またはサイクル数が多すぎる。 | PCR反応に加えるDNAを減らすか、PCRのサイクル数を減らしてください。定量を正確に行うためには、PCRの線形増幅領域内でPCR産物を解析することが非常に重要です。 | |
7. 解析したいターゲットの抗体の免疫沈降産物で、PCR反応による増幅が起こらない。 | PCR反応に加えたDNA量が十分でない。 | PCR反応により多くのDNAを使用するか、サイクル数を増加させてください。 |
免疫沈降に使用した抗体量が十分でない。 | 通常は免疫沈降反応液に1 - 5 μgの抗体を加えますが、実際に必要な量は抗体によって大きく異なります。免疫沈降反応液に加える抗体の量を増やしてください。 | |
免疫沈降ではワークしない抗体である。 | ChIP検証済みの、別の抗体を検討してください。 |
更新:2008年3月
改訂日: 2017年5月
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