シナプス前入力の乱れなどの細胞間シグナル伝達の異常や、細胞内シグナル伝達の乱れは、神経変性疾患の病態形成に関与しています。遺伝子発現を制御するシグナル伝達経路の理解は、治療法の開発に役立ちます。
CREBは記憶の形成に重要な役割を果たす転写因子です。アルツハイマー病のマウスモデルの脳ではCREBシグナル伝達の異常が見られており、ヒトのアルツハイマー病においても脳に同様の異常が起こっている可能性があります。CREBの機能障害はハンチントン病の発症や進行にも関与している可能性があります。
CREBはSer133がリン酸化されることで活性化される転写因子です。アルツハイマー病患者の前頭前皮質ではリン酸化CREB (Ser133) の量が低下しており、CREBシグナル伝達の障害が示されています。アルツハイマー病患者の末梢血単核細胞 (PBMC) でのリン酸化CREBの量の低下と、死後脳のリン酸化CREBの量には相関が見られるため、末梢血単核細胞のリン酸化CREBの量が疾患進行のバイオマーカーになる可能性があります。
GSK-3βはTau、β-Amyloid (Aβ)、α-Synucleinと相互作用することが知られており、アルツハイマー病やパーキンソン病の発症に関与しています。Tauの高リン酸化を担うキナーゼの1つであり、神経原線維変化の原因となります。GSK-3βは軸索輸送、微小管動態、アポトーシス、炎症などの重要な細胞イベントの制御に関与しており、潜在的な治療標的になります。
GSK-3βはSer9がリン酸化されることで不活性化され、インスリンに応答したグリコーゲン合成の制御に影響します。アルツハイマー病のマウスモデルにおいて、GSK-3βのSer9のリン酸化がβ-Secretaseによるアミロイド前駆体タンパク質のプロセシングを低下させ、β-Amyloidの産生を減少させている可能性があります。