脳と神経系の研究には、神経細胞だけではなく、ミクログリアやオリゴデンドロサイト、アストロサイトの解析が必要です。これらの細胞を可視化して同定するには、これらの細胞の中で特異的に発現および局在するタンパク質バイオマーカーを標的とする抗体を用いることが重要です。
ニューロンは中枢神経系 (CNS) と末梢神経系 (PNS) にて電気的に興奮する細胞で、情報処理のために電気的インパルスと神経化学的シグナルを送受信します。ニューロンは、脳、脊髄、末梢感覚系、末梢運動系の活性を駆動します。それらは、シナプスを通じて電気的シグナルと神経伝達物質を迅速に送信するために高度に特殊化されています。神経系には多様な種類および形態のニューロンがありますが、通常、シグナルは細胞体あるいは樹状突起により受信され、軸索を通じて送信されます。ニューロンは、NeuN、β3-Tubulin、UCHL1などの細胞特異的な細胞内タンパク質の観察によりしばしば同定されます。
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NeuN (Neuronal Nuclei) は、mRNA前駆体の選択的スプライシングのレギュレーターであり、ニューロンの核内でFox-3に変換される抗原を首尾よく標的とするモノクローナル抗体の作成により、哺乳類で最初に同定されました。このタンパク質に対する抗体は、一般的に脊椎動物にてニューロンの大部分の核の標識に用いられます。
β3-Tubulin (TUBB3) は、ニューロンの微小管の主要な構成因子である6種類のβ-Tubulinのアイソフォームの一つです。胎児および出産後の発生中に高度に発現し、適正な軸索の誘導、成熟および維持において極めて重要な役割を果たします。この細胞マーカーに対する抗体は、すべてのニューロンの細胞骨格を染色します。
MAP2 (Microtubule-Associated Protein2) は、ニューロンのリン酸化タンパク質であり、微小管の構造と安定性、ニューロンの形態形成、細胞骨格のダイナミクスと軸索と樹状突起でのオルガネラの輸送を調節します。MAP2のアイソフォームはニューロンの周核体と樹状突起で発現し、MAP2を標的とする抗体をニューロンの樹状突起を明瞭に示す有用なツールにします。
アストロサイトはCNS中に最も広く存在するグリア細胞で、脳と脊髄の中に見られます。神経系におけるアストロサイトの機能には、神経回路の形成と発生の支持 (構造的な支持)、血流の制御 (血液脳関門中の内皮細胞の支持)、シナプス伝達とシナプス機能の支持、エネルギー供給と代謝 (ニューロンへの栄養の供給や、特定の神経伝達物質の合成) などがあります。アストロサイトの欠損や異常機能は、様々な神経変性疾患プロセスに関与していることが示唆されています。アストロサイトの慢性的な活性化は、アルツハイマー病やハンチントン病で見られる病変と類似した病変をもたらします。いくつかの有用なアストロサイトマーカーとして、GFAPとALDH1L1が挙げられます。
GFAP (Glial Fibrillary Acidic Protein) は、クラスIIIの中間径フィラメントであり、CNS中のアストロサイトの細胞骨格を形成します。GFAPはアストロサイトの形態を確立して維持し、有糸分裂だけでなくニューロン-アストロサイト間の連絡にも重要です。GFAPを検出する抗体は、しばしばアストロサイトの標識に用いられ、その脳の中での独特の形態を明確にします。
ALDH1L1 (Aldehyde Dehydrogenase 1 Family Member L1) は、葉酸代謝で鍵となる酵素であり、細胞代謝と増殖の調節において重要な役割を果たします。ALDH1L1の下方制御が腫瘍において観察され、がん細胞の増殖抑制の低下を導きます。ALDH1L1を標的とする抗体は、脳のアストロサイトの細胞質を標識し、細胞体とこれらの細胞のプロセスを効果的に染色します。
オリゴデンドロサイトは高度に特殊化されたグリア細胞で、脂質に富んだミエリンを形成し、ミエリンは軸索の周囲に保護のための鞘を提供しニューロン間のシグナル伝導速度を改善します。オリゴデンドロサイトは、MOG (Myelin Oligodendrocyte Glycoprotein)、MAG (Myelin-Associated Glycoprotein)、MBP (Myelin Basic Protein) のような、ミエリンファミリータンパク質の発現によって同定できます。オリゴデンドロサイトの前駆細胞は脳に存在し、神経回路に損傷を受けた場合に速やかに増殖してオリゴデンドロサイトを補充し髄鞘を修復します。しかしながら、ミエリンの分解と完全にミエリン化されたオリゴデンドロサイトの再生不能が、アルツハイマー病 (AD)、パーキンソン病 (PD)、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、多発性硬化症 (MS) を含むいくつかの神経変性疾患と関係づけられています。
MBP (Myelin Basic Protein) はCNSで最も豊富に存在するタンパク質で、神経細胞のミエリン化に重要な役割を果たしています。軸索を取り囲むミエリン鞘の主要な構成因子であるMBPは、圧縮されたミエリンの細胞質膜の接着に寄与します。このことは、神経インパルスの伝導を促進するために極めて重要です。MBP抗体はCNSおよびPNSにおいて、オリゴデンドロサイトとSchwann細胞のミエリン鞘の染色にしばしば用いられます。
PLP1 (Myelin Proteolipid Protein) は主要な膜結合リン脂質タンパク質で、CNSのオリゴデンドロサイトに豊富に存在します。これはミエリンの多重膜構造の形成と維持において極めて重要な役割を果たします。この細胞に対する抗体は、CNS中のオリゴデンドロサイトのミエリンを染色します。
CNPase (2',3'-Cyclic Nucleotide 3'-Phosphodiesterase) は、2',3'-環状ヌクレオチドの加水分解を触媒する酵素です。オリゴデンドロサイトの分化で初期の役割を果たし、軸索を取り巻く圧縮されたミエリンの形成を助ける可能性があります。CNPaseはオリゴデンドロサイトとSchwann細胞に豊富に存在し、この酵素を標的とする抗体は、通常CNSおよびPNSのミエリンの標識に用いられます。