G2/M期のDNA損傷チェックポイントは、細胞がゲノムDNAの損傷を持ったまま有糸分裂 (M期) に入るのを防ぐ働きをしています。特に、Cyclin B-cdc2 (CDK1) 複合体の活性はG2期の移行の制御において重要な役割を担っています。チロシンキナーゼWee1とMyt1によって、cdc2の不活性状態が維持されています。細胞がM期に近づくと、Aurora Aキナーゼと補助因子のBoraが共同してPLK1を活性化し、次いでホスファターゼcdc25とその下流のcdc2を活性化し、フィードバック増幅ループが作られることによって、細胞は効率よく分裂期に入ることができると考えられています。ここで重要なことは、DNA損傷の刺激は、センサーとなるDNA-PK/ATM/ATRキナーゼを活性化し、これが2つの並行するカスケードに引き継がれて、最終的にCyclin B-cdc2複合体を不活性化するということです。第一のカスケードでは、Chkキナーゼがリン酸化してcdc2の活性化を妨げ、cdc25を不活性化することで有糸分裂への進行を急速に阻害します。より進行が遅い第二のカスケードは、p53のリン酸化に関与し、MDM2とMDM4 (MdmX) からのp53の解離を促します。これによってDNA結合と転写制御活性が、それぞれ活性化されます。p53の転写制御能は、コアクチベーター複合体であるp300/PCAFによるアセチル化を介してさらに増強されます。この第二のカスケードは、p53の下流で制御を受ける次の遺伝子から構成されます。14-3-3は、リン酸化されたCyclin B-cdc2複合体に結合し、これを核外に運び出す役割を担います。GADD45は、Cyclin B-cdc2複合体に結合して解離させます。p21 Cip1は、cdc2などのCyclin依存性キナーゼサブセットの阻害因子です。近年のデータでは、p53依存性WIP1ホスファターゼが、がんにおけるDNA損傷のシグナル伝達の阻害因子として、重要な役割を担っていることが示されています。ヒトのがんでは、p53の変異が共通して観察されることが研究から明らかにされています。これは、このチェックポイントが腫瘍形成にとって極めて重要な障害であることを示しています。さらに、BRCAファミリーやATM、ファンコーニ貧血症タンパク質などのDNA修復タンパク質に認められる散発性および家族性の変異も、このチェックポイントが重要な腫瘍抑制チェックポイントとして機能することを裏付けています。
この図の作成にご貢献下さった、Brigham and Women’s Hospital、ハーバード大学医学大学院 (マサチューセッツ州、ボストン) のHans Widlund教授に感謝いたします。
作成日:2002年11月
改訂日:2012年11月