主要なチェックポイントであるG1/S細胞周期チェックポイントは、真核細胞がG1期を経て、DNA合成期であるS期へ移行する段階を制御します。2つの細胞周期キナーゼ複合体、CDK4/6-Cyclin DとCDK2-Cyclin Eは、共同してRetinoblastoma protein (Rb) とE2Fを含む動的な転写複合体による阻害を解除します。G1期でS期へ進行しない細胞では、低リン酸化型RbがE2F-DP1転写因子に結合し、HDACとともに阻害性複合体を形成し、下流で起こる重要な転写イベントを抑制します。S期への進行は、Cyclin D-CDK4/6とCyclin E-CDK2によるRbの連続的なリン酸化を介して起こり、HDAC阻害性複合体を解離します。これによって、DNAの複製に必要な遺伝子の転写が可能になります。成長因子存在下において、AktはFoxO1/3をリン酸化します。これによって、FoxO1/3の機能は核外への輸送により阻害され、細胞の生存と増殖が可能になります。重要なのは、TGF-β、DNA損傷、複製老化、成長因子の除去など、様々な刺激がチェックポイント制御を発動するということです。これらの刺激は、転写因子を介して作用し、Cyclin dependent kinase inhibitor (CKI) のINK4またはKip/Cipファミリーなどのメンバーを誘導します。特に、発がん性のポリコーム群タンパク質Bmi1は、幹細胞およびヒトがん細胞において、INK4A/B発現を抑制する制御因子として作用します。CKIによる制御に加えて、TGF-βもまた、CDKの活性に直接必要なホスファターゼであるcdc25Aの転写を阻害します。DNA損傷のチェックポイントを担う重要な収束点では、Cdc25Aがユビキチン化されて、ATM/ATR/Chk経路下流のSCFユビキチンリガーゼ複合体を介した分解の標的となります。しかし、Cdc25Aが有糸分裂 (M期) の適切な時期に、APCユビキチンリガーゼ複合体を介して分解されると、有糸分裂の進行が促されます。さらに、成長因子が除去されるとGSK-3βが活性化されてCyclin Dのリン酸化が起こり、それによって急速なユビキチン化とプロテアソームによる分解が起こります。このように、ユビキチン/プロテアソーム依存性の分解経路と核外輸送は、通常、細胞周期制御タンパク質の濃度を効果的に減少させるためによく用いられるメカニズムです。さらに重要なことには、このチェックポイントがヒトの腫瘍細胞では常に制御不全となっていることが研究から明らかになっているため、Cyclin D1/CKD4/6複合体ががんの治療標的として研究されています。
この図の作成にご貢献下さった、Brigham and Women’s Hospital、ハーバード大学医学大学院 (マサチューセッツ州、ボストン) のHans Widlund教授に感謝いたします。
作成日:2002年11月
改訂日:2012年11月