低酸素状態 (低O2) は細胞のO2消費と血流の不均衡に起因する病態生理学的状態です。低酸素状態は、化学放射線抵抗性を獲得した予後不良な固形腫瘍に共通してみられる特徴です。後生動物はHypoxia inducible factor (HIF) を介する低酸素適応メカニズムを進化させており、HIFは、O2に調節されるHIF-αサブユニット (HIF-1α、HIF-2α、HIF-3α) と、恒常的に発現しているHIF-1βサブユニットから構成されたヘテロ二量体のBasic-Helix-Loop-Helix転写因子のファミリーです。酸素が十分にある細胞では、HIF-αサブユニットは、酸素依存的なProlyl-4-hydroxylase (PHD) によりプロリン残基にヒドロキシル化を受けます。このプロリンのヒドロキシル化により、von Hippel-Lindauタンパク質 (pVHL) への結合が可能になります。pVHLはHIF-αを標的とするE3ユビキチンリガーゼで、HIF-αをプロテアソーム分解へと導きます。さらに、HIF-αは非低酸素条件下でFactor inhibiting HIF-1 (FIH) によってアスパラギニルヒドロキシル化を受け、これによりHIF-αのコアクチベーターp300/CBPへの結合が妨げられます。低酸素下では、PHDおよびFIH活性は基質に限定的に作用し、急速なHIF-αの蓄積、核移行およびHIF-1βとの二量体化が進みます。トランス活性化は、DNAのコンセンサス配列へHIF-1が結合することで引き起こされます。この配列は標的遺伝子のプロモーター内に存在し、Hypoxia responsive element (HRE) として定義されます。HIF-1は、低酸素に対する細胞の自律的および非自律的な適応に関与する何百もの遺伝子の発現を促進します。遺伝子およびその機能の例は、図に示されています。HIF-αは、mTORによりタンパク質レベルで、またはSTAT3およびNF-κBシグナル伝達によりmRNAレベルで、正に制御されます。HIF-1は、癌細胞および間質細胞の両方に対して多面的な効果を発揮します。例えば、VEGF-AおよびPDGF-BのHIF-α依存的な発現により、周皮細胞、内皮細胞、血管平滑筋細胞の増殖および遊走が促進されることによって、血管新生が誘導されます。腫瘍関連線維芽細胞 (CAF) では、HIF-αは細胞外マトリックス (ECM) リモデリングや代謝リプログラミングを仲介し、細胞の生存を助けます。さらに、HIF-αは、骨髄系由来サプレッサー細胞 (MDSC)、制御性T細胞 (Treg)、腫瘍関連マクロファージ (TAM) のリクルートおよび活性化を刺激するサイトカインの発現を促進することで、適応免疫系を抑制します。
この図をレビューして下さった、Princess Margaret Cancer Centre、The Campbell Family Institute for Cancer Research、University Health Network (カナダ、オンタリオ州、トロント) のLuana Schito博士に感謝いたします。
作成日:2017年2月