インスリンはグルコースや脂質代謝などの重要なエネルギー制御を担う主要なホルモンです。インスリンは、インスリン受容体チロシンキナーゼ (IR) を活性化し、IRSファミリータンパク質などの様々な基質アダプターをリン酸化・リクルートします。その後、チロシンがリン酸化されたIRSは多くのシグナル伝達因子に結合部位を暴露します。そのうち、PI3Kは主にAkt/PKBとPKCζカスケードの活性化を介して、インスリン作用において重要な役割を担います。活性化されたAktは、GSK-3の阻害を介したグリコーゲン合成、mTORとその下流因子を介したタンパク質合成、複数のアポトーシス促進因子 (Bad、FoxO転写因子、GSK-3、MST1) の阻害による細胞生存などを誘導します。AktはFoxO転写因子をリン酸化して直接的に阻害することで、代謝やオートファジーも制御します。それとは逆に、AMPKはFoxO3を直接的に制御して転写を活性化させることが知られています。また、インスリンシグナル伝達は、主にAktカスケードやRas/MAPK経路の活性化を介して、増殖と有糸細胞分裂も調節します。さらに、インスリンシグナル伝達経路はULK1キナーゼを介してオートファジーを阻害します。ULK1キナーゼは、AktとmTORC1によって阻害され、AMPKによって活性化されます。インスリンは、GLUT4小胞の細胞膜への移行を介して、筋肉および脂肪細胞のグルコース取り込みを刺激します。GLUT4の移行には、PI3K/Akt経路、IRが媒介するCAPのリン酸化、およびCAP:CBL:CRKII複合体の形成が関与しています。加えて、インスリンシグナル伝達は、CREB/CBP/mTORC2の結合阻害を介して肝臓における糖新生を阻害します。インスリンシグナル伝達は、SREBP転写因子の制御を介して脂肪酸とコレステロールの合成を誘導します。また、USF1とLXRの活性化を介して脂肪酸の合成も促進します。Akt/PKB、PKCζ、p70 S6K、およびMAPKカスケードから負のフィードバックシグナルが発せられると、セリン残基のリン酸化を介してIRSシグナル伝達が不活性化されます。
この図をレビューして下さった、スタンフォード大学 (カリフォルニア州、スタンフォード) のAshley Webb氏とAnne Brunet教授に感謝いたします。
作成日:2003年6月
改訂日:2016年9月