翻訳は高度に調節されたプロセスで、mTORC1-S6Kのシグナル伝達経路は、その制御において重要な役割を担っています。翻訳開始の速度は、主にeIF4Fによる5'キャップ構造の認識によって決定されています。eIF4Fは三量体タンパク質複合体で、5'キャップ構造に結合するeIF4E、リーダー配列中にある複雑な二次構造をほどくために必要なヘリカーゼeIF4A、およびmRNAのeIF3への輸送やPolyA binding protein (PABP) への結合を介したmRNAの環状化を媒介する、大きな足場タンパク質eIF4Gから成ります。eIF4Fのキャップへの結合はeIF4E binding protein (4EBP) に邪魔されます。低リン酸化状態になると、4EBPはeIF4Eと結合してeIF4Gとの結合を阻害します。しかし、成長因子や分裂促進因子、アミノ酸などの正の刺激因子の刺激を受けると、mTORC1が4EBPをリン酸化してこの阻害状態を解除します。これによってeIF4Fの形成が促進され、翻訳が開始されます。さらに、mTORC1はPDK1とともにS6キナーゼをリン酸化し、リン酸化されたS6キナーゼが翻訳に関与する多数の基質タンパク質をリン酸化します。これらには、低分子量のリボソームサブユニットであるS6、eIF4Aヘリカーゼの活性化因子であるeIF4B、 リン酸化で阻害されるeIF4A阻害因子であるPDCD4、mRNAのスプライシング因子であるSKARなどが含まれます。mTORC1伝達経路とは別に、Ras-MAPK経路も主な翻訳制御機構であり、eIF4BおよびeIF4EのMNKキナーゼを介したリン酸化を担っています。
本パスウェイ図を監修していただいたRachel Wolfson博士に深く感謝致します。
作成日:2002年1月
改訂日:2014年6月