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アルツハイマー病シグナル伝達

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アルツハイマー病におけるアミロイド斑と神経原線維変化の形成

アルツハイマー病は世界で最も一般的な神経変性疾患の1つです。臨床的には、細胞外のアミロイド斑と細胞内の神経原線維変化を特徴とし、神経機能障害や神経細胞死を引き起こします。この疾患は、主にアミロイド前駆体タンパク質 (APP) のプロセシングの違いにより生じます。APPは内在性膜タンパク質であり、タンパク質プロセシングを受けます。APPはまずα-セクレターゼによって切断され、sAPPαとC83カルボキシル末端フラグメントとなります。sAPPαはシナプスの正常なシグナル伝達に関与しており、学習や記憶などの高次脳機能や行動に寄与する神経の、生存やシナプス可塑性などのプロセスを調節します。一方で、APPはβ-セクレターゼとγ-セクレターゼによって順次切断され、細胞外に様々な大きさのモノマーを放出することがあります。その中でAβ (β-Amyloid) 40/42が最も重要です。病態時には、APPのプロセシング経路のバランスが崩れることにより神経毒性を持つモノマーの凝集が増加し、Aβのオリゴマー化やアミロイド斑の形成を引き起こします。病因となるAβの凝集は、イオンチャネルの遮断やカルシウムの恒常性の乱れ、ミトコンドリアの酸化ストレス、エネルギー代謝障害、グルコースの調節異常を引き起こすことによりシナプス機能を変化させ、最終的には神経細胞死を引き起こします。アストロサイトミクログリアなどの多くのグリア細胞が、Aβのモノマーやオリゴマー、アミロイド斑の蓄積を介して神経保護および病原性の両方に関与することが分かっています。アルツハイマー病では、過剰にリン酸化された微小管結合タンパク質であるTauによる神経原線維変化が見られることも特徴の1つです。GSK-3α/βとCDK5は、Tauのリン酸化を主に担っているキナーゼですが、PKCやPKA、Erk2などの他のキナーゼもTauのリン酸化に関与しています。Tauの過剰なリン酸化により、Tauは微小管から解離し、その結果、微小管の不安定化やTauの凝集が起こり、最終的に神経原線維変化が生じます。この神経原線維変化の進行性の蓄積により、神経細胞のアポトーシスが誘導されます。

微小管関連タンパク質 (MAP) であるTauは、アルツハイマー病 (AD) において神経内の神経原線維変化の主な構成因子としてよく知られています。神経原線維変化は、タウオパチーと呼ばれるADやその他多数の神経変性疾患の特性となっています。中枢神経系 (CNS) では、Tauは微小管アセンブリーのダイナミックなプロセスにおいて、通常は軸索の微小管に結合し、その四元構造を安定化する主なMAPです。Tauにより媒介される安定化により、長い軸索の突起を考えたときに神経の健康と機能に大変重要となる、微小管のハイウェイに沿った定期的なカーゴ輸送が可能となります。この安定化機能は、Tauの通常は柔軟な三元構造に大きく依存しています。この構造は、突起部分と微小管の結合ドメインの両方にあるタンパク質すべての特異的な部位のリン酸化が維持されることによって保たれます。ADの観点からは、tauキナーゼ/ホスファターゼの活性がシフトし、これによりタンパク質全体のリン酸化のパターンが変化・増加します。その結果、Tauの微小管を安定化する能力が損なわれ、ひいては、微小管とカーゴ輸送の異常が増加します。重要なのは、Tauの病態的に過剰なリン酸化により、2本のフィラメントがらせん状に凝集する傾向が高まり、これが大きな細胞内神経原線維変化 (NFT) を形成するということです。これがつまり、疾患となった組織で見られるADの顕著な特徴です。微小管の不安定化とNFTは共に、ADおよびタウオパチーに関連付けられる神経毒性と神経変性に寄与します。

アミロイド前駆体タンパク質 (APP) 695アイソフォームは、膜貫通型タンパク質I型です。これは、ニューロンに発現し、アルツハイマー病 (AD) に遺伝的・生化学的に関与するアミロイド形成性Aβモノマー断片を含有しています。このAβモノマーは、2つのトランスレーショナルタンパク質の切断経路のうち、いずれか一方から生じます。いずれの経路から生ずるかは、様々な要因に依存しており、これには、ニューロンの活性やAPPの局在化、それぞれのタンパク質セクレターゼなどが含まれます。この選択の重要点は、APPの最初の切断、つまり細胞膜内に存在するADAM10などのα-セクレターゼによるタンパク質分解が細胞外の溶出性APPα (sAPPα) を生成し、Aβの形成を防ぐことによります。これは、α-セクレターゼの切断がAβドメイン内で発生するためです。しかし、エンドソームでの発生が多いBACE1などのβ-セクレターゼによる別の切断によりAβドメインが保全され、γ-セクレターゼによるその後の切断によりアミロイド形成性のAβモノマーが産生されます。γ-セクレターゼタンパク質Presenilin 1と2の変異は、おそらくAβモノマーの生成が強化されるため、早発性ADの原因であると考えられています。正常時には、α-セクレターゼ分断の経路が優先しsAPPαとAICDが産生されます。健康なニューロンの発達や維持、機能に重要な役割を果たすものです。しかしβ-セクレターゼの分断が優先すると、有益なsAPPαの量が減弱し、プリオン様のAβモノマーの産生が増加します。これは細胞内で蓄積するか、細胞表面に輸送され細胞外に放出されます。これらのモノマーは自己凝集してオリゴマーから成り立つ繊維となり、これが蓄積して細胞外Aβ斑が形成されます。この斑は家族性ADと自然発生ADの両方の特徴であり、神経原線維経路をトリガーし、神経変性と認知機能の低下と関連付けられています。

アストロサイトは、星に似た形状をしたグリア細胞の小集団で、中枢神経系 (CNS) の中で最も多くみられる細胞の種類です。神経系におけるアストロサイトは、特に血液脳関門内でのニューロンの維持とサポートを提供することによって、高い神経保護作用を及ぼします。アストロサイトはまた、シナプス伝達と神経炎症反応にも関与しており、脳のApolipoprotein (ApoE) とコレステロールの主な源であり、これはABCA1輸送体を介して外に運び出され、転写膜の完全性に重要な役割を果たします。通常アストロサイトは、ApoEの産生を通じてAβの除去を助けます。ApoEは、Aβを血液脳関門を越えて排出することにより、またはファゴサイトーシスもしくは受容体に媒介されるエンドサイトーシスにより除去を促進します。LRP1は広く研究されています。ApoEおよび密度の高いリポタンパク質に結合したAβも、ミクログリアの取り込みまたはミクログリアが媒介する神経炎症反応を通じて除去されます。APOE遺伝子の変異は、遅発性アルツハイマー病と関連付けられています。この状況下では、ApoE機能の変化がAβの細胞外の凝集につながり、ニューロン膜の完全性が損なわれ、これが神経炎症反応を促進し、システムの調節不全がさらに促進されます。非家族性AD症例の大半との関連が確立されているにもかかわらず、ApoEの病態への寄与の機序は未だ解明されていません。

グリア細胞のサブタイプであるミクログリアは、中央神経系 (CNS) の神経免疫系で最も大きな役割を果たすものです。構造上ダイナミックなプロセスを有するミクログリアは、その環境を休むことなくスキャンしており、ニューロンの維持とシナプスの剪定を行うハウスキーパー的な役割を果たすとともに、急性および慢性の損傷に対して防護します。アルツハイマー病 (AD) においては、ミクログリアはアミロイド斑を取り囲み、斑の増殖を空間的に抑制しながら、ファゴサイトーシスにより除去を開始する様子が観察されています。特に、 2 (TREM2) 上に発現されるミクログリアをトリガーする受容体の変異は、遅発性ADのリスクの顕著な増加と関連付けられています。TREM2は、細胞の表面にある免役受容体であり、ApoEやAβなどの数多くのポリアニン系リガンドによりこれが活性化すると、そのアダプタータンパク質DAP12を通じての細胞内シグナル伝達カスケードを開始します。通常TREM2の活性化は、神経保護機能に必須であるミクログリアの走化性、ファゴサイトーシス、増殖、維持などを促進します。より具体的には、正常なTREM2リガンドの結合はPI3Kおよび下流のmTORの活性化につながり、これにより、ミクログリアによるオートファジーが阻害されます。オートファジーは、ミクログリアがAβ斑を取り込む際に、ミクログリアの活性と高代謝状態を保つために重要なプロセスです。TREM2がない状態では、Trem2-/-ミクログリアにおいてオートファジーベシクルの減少が認められるため、この役割は障害される可能性が高いと考えられます。ADの表現型では、Aβのミクログリアによる除去が最初に受ける損害により、凝集物が細胞外に蓄積し、これが慢性的なミクログリアの炎症反応を引き起こし、ADに関連する神経変性に寄与する神経毒性作用を起こします。

参考文献:

コロラド大学デンバー校のChristopher Phiel教授、およびオハイオ州立大学 (オハイオ州、コロンバス) のJeff Kuret教授に図表をレビューしていただいたことを感謝いたします。

作成日:2009年7月

改訂日:2022年6月

参考文献:

作成日:2022年6月

参考文献:

作成日:2022年6月

参考文献:

作成日:2022年6月

参考文献:

作成日:2022年6月

アセチル化酵素
アセチル化酵素
代謝酵素
代謝酵素
アダプター
アダプター
メチルトランスフェラーゼあるいはGタンパク質
メチルトランスフェラーゼあるいはGタンパク質
アダプター
アポトーシス/オートファジー調節因子
ホスファターゼ
ホスファターゼ
細胞周期の調節因子
細胞周期の調節因子
タンパク質複合体
タンパク質複合体
脱アセチル化酵素あるいは細胞骨格タンパク質
脱アセチル化酵素あるいは細胞骨格タンパク質
ユビキチン/SUMOリガーゼあるいは脱ユビキチン化酵素
ユビキチン/SUMOリガーゼあるいは脱ユビキチン化酵素
成長因子/サイトカイン/発生調節タンパク質
成長因子/サイトカイン/発生調節タンパク質
転写因子あるいは翻訳因子
転写因子あるいは翻訳因子
GTPase/GAP/GEF
GTPase/GAP/GEF
受容体
受容体
キナーゼ
キナーゼ
その他
その他
 
直接的プロセス
直接的プロセス
一時的なプロセス
一時的なプロセス
転座プロセス
転座プロセス
刺激型修飾
刺激型修飾
阻害型修飾
阻害型修飾
転写修飾
転写修飾