Phosphatidylinositol (PtdIns) は、イノシトール環と、グリセロール骨格を介して結合した2つの脂肪酸鎖からなる小さな脂質分子であり、細胞膜の細胞質面にアンカーされた構造を有します。PtdInsは、多数の脂質キナーゼによってイノシトール環の3、4および/または5ヒドロキシ基がリン酸化されます。これにより、多様性に富むPhosphatidylinositol monophosphate (PI3P、PI4P、PI5P)、diphosphate [PI(3,4)P2、PI(3,5)P2 、PI(4,5)P2]、triphosphate [PI(3,4,5)P3]が産生され、ひとまとめにPhosphoinositideとして知られています。リン酸化は、部位特異的な脂質ホスファターゼによって除去されることで、脂質のリン酸化状態の動的変動が可能になります。一般的に、Phosphatidylinositol monophosphateは、細胞内の膜 (細胞内小胞、ゴルジ体、核) に局在しますが、Phosphatidylinositol diphosphateおよびPhosphatidylinositol triphosphateは形質膜に認められます。小胞体で合成されたPtdInsとPhosphoinositideは、細胞内小胞に乗って様々な細胞内コンパートメントを往復します。これにより対応する修飾酵素との相互作用が可能になります。Phosphoinositideは普遍的なシグナル構成要素で、膜タンパク質 (例:イオンチャネル、GPCR) との直接的な相互作用や、Phosphoinositideと直接結合できるようなドメイン (pleckstrin homology (PH)、FYVE、WD40リピート、FERM、PTB、およびPDZドメインなど) を有した細胞質タンパク質を細胞膜へリクルートすることで、細胞活動を制御します。これまでに最もよく研究されてきたPhosphoinositideはPI(3,4,5)P3であり、PI3KクラスIによってPI(4,5)P2から合成され、PTENにより脱リン酸化されます。PI3KクラスIおよびPTENは両方とも、受容体チロシンキナーゼに誘導されるAktシグナル伝達の中心的なメディエーターであり、これらの変異は多くの形態の癌で高頻度に認められます。Aktシグナル伝達に関連する細胞増殖、生存および代謝での作用に加え、Phosphoinositideシグナル伝達は細胞骨格の変化やアクチンの再構成を誘導し、クラスリン媒介エンドサイトーシス、小胞輸送、メンブレンダイナミクス、オートファジー、細胞分裂/細胞質分裂、細胞遊走、およびUVストレス応答にも関与します。