SignalScan Peptide Mix (SARS-CoV-2) をご利用いただくことで、サンプルを濃縮することなく、疾患関連ペプチドを高感度かつ安定してプロファイリングし、タンパク質レベルや翻訳後修飾を定量することができます。本製品は、SISASやPRM/MRM LC-MS解析でご利用いただくことで、ウイルスタンパク質や、宿主の免疫応答タンパク質の正確なマルチプレックス解析が可能になります。
SARS-CoV-2のウイルス侵入と宿主の免疫応答を早期に解明するため、様々な分析技術が利用されています。多数のウイルスタンパク質や免疫タンパク質を、ウェスタンブロットやELISAなどで個別にモニタリングするためには、多くの作業量とサンプル量が必要になります。特異的なターゲットプロテオミクス技術を利用することで、予め標的を設定し、多くのタンパク質の翻訳後の変化を1度に定量することができます。このターゲットプロテオミクスのアプローチは、独特なマルチプレックス解析が可能で、貴重な時間や労力を節約するだけでなく、より焦点を絞った定量的なデータを得ることができ、複雑な仮説をサポートするのにお役立ていただけます。SISASワークフローはターゲットLC-MS/MS解析に基づく手法で、関連するSARS-CoV-2タンパク質や翻訳後修飾 (PTM) を1度に効率的かつ高感度に検出し、特異性の高い解析を行うことができます。
SignalScan Peptide Mix (SARS-CoV-2) は、SARS-CoV-2感染とヒト自然免疫応答に関与するタンパク質を注意深く選定し、同位体 (13C & 15N) 標識した合成ペプチドおよびリン酸化ペプチドを混合したものです。この混合物は、C末端のアミノ酸を安定同位体で標識した (15N413C6-Argまたは15N213C6-Lys) ペプチドおよびリン酸化ペプチドを、それぞれ96 pmol混合したもので、AAA (Amino Acid Analysis) で定量しました。これらのSIS (Stable Isotope Standard) には、Nucleocapsidタンパク質やヒト免疫応答タンパク質由来の重要な翻訳後修飾のほか、SARS-CoV-2タンパク質や免疫シグナル伝達経路の活性変化の指標となるスパイク切断バリアントが含まれています。
タンパク質 | リン酸化部位 | 機能 |
---|---|---|
Nucleocapsid | S176, T198, S206 | ウイルスのアセンブリ |
Spike | R815の切断および未切断 | ウイルスのアセンブリ |
ACE2 | ウイルスの侵入 | |
IL6 | 自然免疫応答 | |
IL8 | 自然免疫応答 | |
Interferon alpha | インターフェロンシグナル伝達 | |
Interferon beta | インターフェロンシグナル伝達 | |
STAT1 | S727, Y701 | インターフェロンシグナル伝達 |
Jak1 | Y1034, Y1035 | インターフェロンシグナル伝達 |
PERK | S715 | 翻訳活性 |
IRAK4 | T345, S346 | TLRの活性化/ウイルスRNAの検出 |
SISASワークフローを利用することで、ヒトサンプルから標的ペプチドを詳細に解析し、感染から治療条件までの結果を比較することができます。細胞の内因性タンパク質を抽出し、トリプシン処理でペプチドに消化します。続いてSignalScan™ Peptide Mix (SARS-CoV-2) をサンプルにスパイクした後、SISASやPRM/MRM LC-MS/MS解析を行います。
SISAS (Stable-Isotope-Standard-Assisted Scanning) ワークフローはタンデム質量分析法で、予め重同位体標識したペプチド標品をサンプルにスパイクし、高速MS2スキャンで注目している内因性ペプチドと同時に検出します。「Watch Mode」のMS2サーベイスキャンで標的ペプチドが同定されると、LC-MS2プログラムは「Quantification Mode」に切り替わり、高分解能MS2スキャンを実行し、標的の溶出ピークの高品質な定量を行います。この解析は、Thermo Scientific Orbitrap Exploris 480、Orbitrap Eclipse Tribrid、その他Tribrid Orbitrap MS systems (Tune v3.3以上) などの、HRAM Orbitrap LC-MSで行うことができます。
SignalScan Peptide Mix (SARS-CoV-2) を用いたSISASワークフローで、ACE2受容体を過剰発現するヒトA549細胞を解析しました。下の図に、Skylinneソフトウェアで可視化した、ウイルス感染したA549細胞に由来するSARS-CoV-2 Nucleocapsidタンパク質 (上) と、ヒトACE2タンパク質 (下) のペプチドのプロダクトイオンクロマトグラムを示しました。標準的なDDA (Data-Dependent Analysis) LC-MS/MS法を用いた場合 (左) は、シグナルがみられないか、ピークが崩れていることが分かります。SISAS (Stable-Isotope-Standard-Assisted Scanning) 法を用いた場合 (右) は、明瞭なピークを持つペプチドが一貫して検出され、信頼性の高いペプチドおよびタンパク質の定量が可能です。
SignalScan Peptide Mix (SARS-CoV-2) を用いたSISASワークフローで、ACE2受容体を過剰発現する、ヒトA549細胞を解析しました。SARS-CoV-2に感染させた細胞と擬似感染させた細胞サンプルを調製し、感染させた細胞はさらに、キナーゼ阻害剤で処理したサンプルと未処理サンプル (「SAARS-CoV-2」と記載) を調製しました。下の図に、これらの細胞のSignalScan Peptide Mix (SARS-CoV-2) の全標的のペプチド存在量をヒートマップで示しました。感染状態や薬剤処理の異なる生物学的triplicateが、ウイルスタンパク質由来のペプチドなどの多くの関連ペプチドと同様にクラスターを形成しています。全サンプル中の最大観測値で各ペプチドの生データを正規化し、ヒートマップの作成に用いました。各サンプルは、UPGMAアルゴリズム (unweighted pair group method with arithmetic mean algorithm) を用いてクラスタリングしました。樹状図は、このクラスタリング結果およびヒートマップにプロットした正規化データから作成しました。
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