アルツハイマー病 (AD) は、世界中で数百万人もの成人そして家族に影響を与えている複雑な神経変性疾患です。残念ながら、ADを患った患者に対する有効な治療法がないため、進行性の認知症に長年苦しむ可能性があります。多くの国で高齢化が進んでいるため、2030年までに世界中で約7800万人がADに罹患すると推定されています。
科学者は、数十年にわたりADに関する遺伝子やタンパク質を探求し、研究してきました。このインフォグラフィックは、一般集団における遺伝子変異の相対的な保有率と、AD発症のリスクとの相関についてまとめています。最もよく研究されている変異対立遺伝子は疾患の原因となりますが、保有者は実際にはあまりみられません。APP、PSEN1、PSEN2の遺伝子にみられる保有率の高い変異は、早発性のAD (60歳未満) の原因となることが知られており、全症例の5-10%を占めています。これらの変異対立遺伝子は、遺伝的または決定論的であり、早発性AD症例の35-65%に家族性ADを引き起こす可能性があります。早発性AD以外の症例は、孤発性であると考えられています。これらの遺伝子の発見により、ADにつながる細胞機構、特に、重要な標的であるアミロイドβの代替プロセスが脳内のプラーク形成にどのような影響を及ぼすかが明らかになりました。
より一般的にみられる型は、遅発性アルツハイマー病 (LOAD) (60歳超) と呼ばれ、遺伝的な異質性と多因子性があります。遅発性ADは、遺伝的な危険因子によって発症する場合と、孤発性ADとして発症する場合があります。現在までに発見された遅発性ADの最も重要な危険因子は、1993年に同定されたAPOEの変異対立遺伝子です。Apolipoprotein E (APOE) は、コレステロール代謝の媒介に極めて重要であり、アストロサイトから神経細胞へのコレステロールの輸送に必要です。
ADのさらなる危険因子を発見するまでの道のりは長いものでした。しかし、近年の大規模なゲノムワイド関連研究 (GWAS) により、さらに約95個の危険遺伝子座が特定されました。2021年2月の時点で、これらの遺伝子座のうちの42個は新しいものであり、これらの遺伝子を分類し、遺伝子そのものや、遺伝子から産生されるタンパク質、それらがADのリスクにどのように影響するかのより深い理解が必要とされています。
このような遺伝学研究は、ADに関与する可能性のある遺伝子の探索を始めるのに最適な方法です。GWASや他の遺伝学研究は相関的であり、目的の遺伝子に近い遺伝子座を特定することはできますが、特定の遺伝子がADに関与しているかどうかを判断するにはさらなる研究が必要です。神経変性に影響を与える細胞機構を調べるには、様々な手法を用いて有望な標的タンパク質を機能的に調べることが不可欠です。抗体を用いたアッセイにより、既知のアルツハイマー病関連タンパク質と新規治療標的の関係の検出や可視化、検討することが可能です。標的となることが想定されるタンパク質が同定および特性解析されることにより、ADの初期段階のバイオマーカーとして大いに役立つ可能性があります。
作成日:2023年1月