関節リウマチ (RA) は、全身性の慢性炎症性疾患です。RAの正確な原因は明確に解明されていませんが、発症には遺伝的要因と環境的要因の両方が関与しています。RAでは、自然免疫系や適応免疫系の繰り返される持続的な活性化により、時間をかけて免疫寛容の破綻、自己抗体の産生、炎症性サイトカインの過剰産生のカスケードが惹起されます。その結果、関節に炎症が起こり、最終的には軟骨や骨が損傷し、永続的な機能不全につながります。また、RAの患者には、肺や心臓に全身性の炎症がみられることもあります。
自己抗体が陽性となる前段階にあるRAでは、インターロイキン-1 (IL-1)、IL-6、IL-10などの炎症性サイトカインの発現量に特徴的な変化がみられます。IL-6や、同じく炎症性サイトカインであるII型インターフェロン (IFN-γ) は、主に Janus kinase/Signal transducers and activators of transcription (Jak/Stat) 経路を活性化します。Jak/Stat経路は、多くの炎症性サイトカインの下流シグナルにおける極めて重要な調節機構であり、Phosphatidylinositol-3-kinase/Akt/Mammalian target of rapamycin (PI3K/Akt/mTOR) 経路など、他の免疫に関連する経路とクロストークしています。IL-1とIL-6は炎症反応を増大させますが、IL-10は抑制的に作用します。しかし、この慢性的な炎症反応により、T細胞やB細胞の寛容性が破綻し、自己免疫応答が生じます。
RAの発症の初期に、中心的に作用するサイトカインの1つが、腫瘍壊死因子-α (Tumor Necrosis Factor alpha:TNF-α) です。TNF-αは、様々な細胞タイプにより産生される多機能性サイトカインであり、免疫に関連するカスケードにおいて重要な役割を担います。TNF-αは、主にStress-activated protein kinase/Mitogen-activated protein kinase (SAPK/MAPK) 経路のシグナル伝達を促進するだけでなく、Jak/Statシグナル伝達を活性化し、RAの炎症と関節損傷の両方を促進する主な要因の1つとなります。樹状細胞は、TNF-αなどの多くのサイトカインを放出し、T細胞やB細胞の分化を誘導します。B細胞は、抗シトルリン化タンパク質抗体 (ACPA) やリウマトイド因子 (RF)、補体を産生する形質細胞と形質芽球へと分化し、自己免疫応答をさらに促進します。
T細胞は、形質転換成長因子β (TGF-β) やIFN-γ、IL-2、IL-12、IL-21などの炎症性サイトカインに誘導されてTh1細胞やTh17細胞へと分化し、多くの炎症性分子を産生および放出します。制御性T細胞 (Treg) とTh2細胞は、IL-2やIL-4、IL-10などの抗炎症性サイトカインを産生しますが、RAではこの抗炎症反応が不十分となっています。Th1細胞やTh17細胞は、さらなる炎症性分子を放出し、さらにRANKLやCD40Lを介したシグナル伝達により、マクロファージと滑膜線維芽細胞の免疫応答を誘導します。RANKLは、RAの主要な炎症経路の1つと考えられている、NF-κBシグナル伝達経路に関連するリガンドです。マクロファージは、炎症反応の増幅や多くの炎症性分子の分泌により、T細胞や破骨細胞、軟骨細胞を刺激し、炎症状態を永続させます。
これらの反応により、滑膜は免疫応答が高い環境となり、マスト細胞や好中球などの細胞タイプがさらに活性化されます。好中球は、サイトカインやプロテアーゼ、活性酸素種 (ROS)、活性窒素種 (RNS)、好中球細胞外トラップ (NET) などを産生または形成し、最終的に軟骨や骨の損傷に寄与します。同時に、滑膜線維芽細胞は様々な炎症のインプットに応答して、一部のメタロプロテアーゼやCOX2 (Cyclooxygenase-2)、PGE2 (Prostaglandin E2)、Cadherin-11の産生を誘導し、炎症と組織の損傷を促進します。Cadherin-11は、滑膜線維芽細胞のアクチン細胞骨格のリモデリングを引き起こすことにより、軟骨への浸潤と損傷が促進されます。軟骨細胞はメタロプロテアーゼも産生し、軟骨や骨に損傷を与えるROSやRNSの産生につながります。このような炎症サイクルの持続による様々な要因が、骨や軟骨の破壊を引き起こし、RAは治療法のない疾患となってしまいます。
RAの発症には、相互作用の複雑なネットワークが関与しているため、治療に数多くの標的が用いられることは驚くことではなく、現在も新たな治療戦略や治療法の研究が進められています。RAの従来の治療では、まず、疾患修飾性抗リウマチ薬 (DMARD) として広く知られる薬剤を用いて骨や軟骨への損傷を軽減します。DMARDの中でも、最も重要な薬剤がTNF阻害剤 (TNFi) です。RA発症後の最初の2年間に起こる関節の損傷の大半はTNF-αによるものであり、さらにTNF-αは炎症とそれに続く損傷の主要なドライバーであるため、TNF-α阻害剤はRAの治療の要となります。当然のことながら、その他の治療法もRAに関連する炎症反応に特化したものとなっています。もう1つのDMARDであるJAK阻害剤は、IL-6などの多くの炎症性サイトカインの下流のシグナル伝達を阻害し、炎症カスケードを抑制します。IL-6は、RAの発症に極めて重要なサイトカインであり、IL-6とその受容体の阻害剤は、炎症カスケードの抑制に不可欠です。同様に、RANKL阻害剤は、NF-κBシグナル伝達に影響を及ぼし、炎症カスケードを抑制および遮断します。また、CD20抗体も非常に有効であり、循環B細胞の発現量の低下や、T細胞の活性化を阻害してサイトカイン産生の減少を引き起こします。
しかしながら、RAの治療は通常、複数の治療薬を組み合わせて、疾患を多面的に管理する必要があります。共刺激因子は、免疫系が遭遇する刺激を解析し、その刺激に応じた免疫応答の活性化の補助を行います。RAでは、様々な共刺激受容体や共刺激因子が、大規模な炎症反応に寄与しています。近年開発された治療薬は、CD28やTNFのシグナル伝達経路を制御する共刺激因子を標的にしています。これらの治療介入は、RAの治療において非常に有効であり、T細胞の活性化や増殖、サイトカイン産生を抑制します。現在も、関連する分子の特定や理解に焦点をあてた研究が進められており、これらの研究は、RAのより効果的な治療法の開発において非常に重要です。結論となりますが、この複雑な疾患に対する現在の治療法を改善し、新たな治療法を見出すには、RAの発症を引き起こし、影響を及ぼす様々な遺伝的要因や環境要因についてのより幅広い理解が必要です。
We would like to thank Salah-uddin Ahmed, Ph.D., Washington State University College of Pharmacy & Pharmaceutical Sciences for reviewing this diagram.
作成日:2022年8月