キメラ抗原受容体T細胞 (CAR-T) 療法は、遺伝子組換え細胞を使用してがんを治療する、新しい有望な免疫療法です。キメラ抗原受容体
CARは、増殖、サイトカイン放出、細胞毒性の増強など、エフェクターT細胞の機能を引き出す内因性細胞シグナル伝達カスケードに関与することを目的とした、モジュール設計の合成タンパク質です。CARは、モノクローナル抗体の可変軽鎖領域と可変重鎖領域を繋ぐ1本鎖可変フラグメント (scFv) からなる細胞外抗原認識ドメイン (ARD) を介して、目的の標的に結合します。scFvはスペーサードメインによって受容体の膜貫通部分に繋がれており、その長さはARDの結合親和性に直接影響します。通常、CD8やCD28に由来する膜貫通ドメインは、CARをT細胞の細胞膜に固定し、ARDを受容体の細胞内シグナル伝達部分に接続します。CARの細胞内領域の最適な構成は、これらのドメインの数と長さの変化がCAR-Tの抗腫瘍効果を劇的に変える可能性があることから、活発に研究されています。現在の世代の受容体は、活性化ドメインと1つまたは複数の共刺激ドメインから構成されており、リガンド結合イベントを伝達し、下流の一連のシグナル伝達ネットワークの関与を介して、T細胞の転写プログラムを変更します。T細胞受容体CD3ζ鎖に由来する活性化ドメインは、CARの細胞内部分の共通の特徴であり、T細胞の細胞傷害機能を駆動するシグナル伝達を開始します。CD28受容体ファミリーや腫瘍壊死因子受容体ファミリー (4-1BB、OX40、CD27) に由来する共刺激ドメインを追加することにより、サイトカインの分泌およびCAR-Tの増殖と持続性は強化され、CAR-Tの有効性が高まると考えられています。
細胞内部分に異なる機能ドメインを含めることで、CARはT細胞受容体シグナル伝達の統合されたイベントを単一の受容体鎖で再現できます。CD3ζのリン酸化は、リガンドが結合した時に形成される重要な翻訳後修飾で、これによりZap-70 (zeta-chain associated protein kinase 70) がリクルートされ、下流のアダプターおよび足場タンパク質の集合が促進されます。並行して、共刺激モジュールは、PI3K/AKT、TRAF2 (TNF receptor-associated factor2)/p38MAPK、JNKパスウェイを介して、シグナル伝達を開始します。これらのシグナル伝達イベントは、ひとまとめにNF-κB、NFAT、STAT3、JUN、FOSなどの重要な転写調節因子に収束し、T細胞の活性化とエフェクター機能に関連する遺伝子発現の変化を促進します。
以前の理論では、異なる共刺激ドメインから異なるメカニズムによりシグナルは伝達されると考えられていましたが、最近のCARシグナル伝達のリン酸化プロテオミクス解析により、それらは多数の同じシグナル伝達分子について、活性化速度や強度を変えることが示唆されています (Salter et al., 2018)。ただし、CARインタラクトームとシグナルソームの独立した評価では、可変細胞内領域を含むCAR間のシグナル伝達分子とパスウェイの活性化に関連する有意差が見られたため、この研究で観察された効果は状況に依存する可能性があります (Ramello et al., 2019)。これらの発見から、CAR-T細胞療法の有効性を最適化するには、CARのデザインとそれらが制御する細胞内シグナル伝達イベントとの関係を完全に評価する必要のあることが強調されています。
作成日:2022年8月