パスウェイの説明:
翻訳後修飾 (PTM) はタンパク質の機能や細胞プロセスにおいて、主要なエフェクターとして機能することが明らかになりつつあります。メチル化やアセチル化、リン酸化、SUMO化、その他様々なPTMの発見や調査によって、PTMが核内外で果たす役割が理解されてきました。PTMが着目されるようになったことで、発見されたPTMの数はますます増え、その機能に焦点を当てた研究が増えてきています。近年、修飾の多様性については実に多くの評価が実施されています。しかし、最も重要なのはこれらの修飾が相互に作用しあっているという点です。こうした相互作用は、適正な遺伝子発現やゲノムの構成、細胞分裂、ならびにDNA損傷応答に不可欠です。PTMは、ヒストン修飾の制御、酵素修飾とそれに伴う活性制御、タンパク質複合体の形成、ならびにゲノムや他の細胞内コンパートメントを認識するまたは標的とすることによって、細胞機能に直接影響を与えることが可能です。単一の修飾の場合、特定のリジン残基 (例:ヒストンH3リジン [9-H3K9]) のアセチル化が遺伝子発現の活性化と相関性がある一方で、同じリジン残基のトリメチル化は、ほとんどがクロマチン凝集や遺伝子発現の抑制に関係しています。リジンのメチル化の場合、リジン残基はモノメチル化、ジメチル化、またはトリメチル化される可能性があります。一方、アルギニン残基はモノメチル化、対称性ジメチル化、または非対称性ジメチル化される可能性があります。リジンおよびアルギニンそれぞれに対するメチル化の程度により、特有の意味をもつPTMになり、生物学的な現象を引き起こします。クロマチンにおいて、PTMは単独では起こらず、PTMを組み合わせることで互いの作用を補強しあっています。例えば、あるPTMは、あるタンパク質の「リーダー」と呼ばれる結合ドメインのドッキングサイトとなりますが、一方で同じタンパク質に含まれる他の「リーダー」は別のアミノ酸残基を認識します。これは、リーダータンパク質BPTFの例で、BPTFはH3K4me3とH4K16の両方のアセチル化に結合します。従って、様々な種類や程度の修飾を調整することで、結果的な作用に影響を与えます。このような理由から、細胞はPTMの付加や維持に重要な一連の酵素を発展させてきました。この酵素は「ライター」 (ヒストンメチル基転移酵素、アセチル基転移酵素など)、または「イレイサー」 (ヒストン脱メチル化酵素、脱アセチル化酵素など) として呼ばれます。これらの酵素の多くは、重要な治療標的であり、がんなどの疾患における重要な制御因子であることがわかっています。さらにこれらの知見から、がんやその他の疾患のバイオマーカー候補となるPTMも見出されています。参考文献:
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この図をレビューして下さった、ハーバード大学医学大学院、マサチューセッツ総合病院がんセンター(マサチューセッツ州、チャールスタウン) のJohnathan Whetstine教授に感謝いたします。
作成日: 1.05.2009
改訂日:2014年7月