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CUT&RUNのトラブルシューティングガイド

A:細胞のジギトニンに対する感受性の決定

CUT&RUNキットのプロトコールでは、バッファーにジギトニンを添加することで細胞膜の透過化を行い、一次抗体やpAG-MNase酵素が細胞や核に進入できるようにします。このため、バッファーが適量のジギトニンを含むことは、抗体と酵素の結合および標的ゲノム遺伝子座の消化に不可欠です。異なる細胞株は、ジギトニンの細胞透過化に対して異なる感受性を示します。本プロトコールで推奨されているジギトニンの量は、ほとんどの細胞株や組織の透過化に十分ですが、下記のプロトコールを用いて、使用する特定の細胞株や組織のジギトニン感受性試験を行うことができます。過剰なジギトニンの添加はアッセイに対して有害ではないことが分かっていますので、濃度曲線を作成する必要はありません。推奨されるジギトニンの量が使用する細胞株に十分かどうかを、簡単な試験により判断します。

実験開始前の準備:

  • Digitonin Solution #16359 を取り出して、90 - 100°Cで5分間温めてください。必ず完全に解凍してください。解凍したDigitonin Solution #16359はすぐに氷上に置いてください。

    注意:Digitonin Solution #16359は-20°Cで保管する必要があります。使用中は氷上に置き、使用が終了したら-20°Cで保管してください。

  • 各細胞または組織サンプルあたり、Wash Bufferを100 µL (10X Wash Buffer #31415 10 µL + Nuclease-free Water #12931 90 µL) 調製してください。この試験では、スペルミジンやProtease Inhibitor Cocktailを加える必要はありません。
  1. 1.5 mLチューブに10,000 - 100,000細胞を回収してください。組織の場合は、1 mgの組織から解離した細胞を回収してください (セクション I-C、ステップ 1-13)。固定した細胞や組織をCUT&RUN実験に使用する場合は、この試験でも同じ方法で細胞や組織の固定を行ってください。
  2. 600 x gで3分間、室温で遠心分離して、液体を除去してください。

    注意:細胞ペレットが肉眼で確認できない場合は、ステップ2で細胞懸濁液を最初に遠心分離した後、ペレットを崩さない程度になるべく多くの培地を除去し、培地をいくらか残すことを推奨します。続くステップ3で、適量の1X Wash Bufferを加え、細胞懸濁液の総量を100 µLにしてください。

  3. Wash Buffer 100 µLに細胞ペレットを再懸濁してください。
  4. 1反応あたり、 Digitonin Solution #16359を2.5 µL加え、室温で10分間インキュベートしてください。
  5. 細胞懸濁液10 µLと0.4% Trypan Blue 10 µLを混合してください。
  6. 血球計算盤またはセルカウンターを使用して、染色された細胞数と総細胞数を計測してください。透過化が十分であれば、90%以上の細胞がTrypan Blueで染色されます。
  7. Trypan Blueで染色された細胞数が90%未満の場合は、バッファーに加えるDigitonin Solution #16359 の量を増加させて、90%以上の細胞が透過化され染色されるまでステップ1 - 5を繰り返してください。セクションI-IVでは、この量のDigitonin Solution #16359を使用してください。

B:インプットサンプルのソニケーションの最適化

DNAスピンカラムを使用して精製できるのは、10 kb以下に断片化されたゲノムDNAだけであることから、インプットDNAサンプルのソニケーションを推奨します。1 kb以下に断片化されたゲノムDNAは、NG-seq解析でネガティブコントロールとして使用できます。インプットDNAの長さが100-600 bpになるように、ソニケーションを最適化する必要があります。

NG-seqのコントロールには、インプットサンプルを使用することを推奨します。インプットサンプルは、偏りのない細胞ゲノムの代表として簡便に使用できるからです。IgGサンプルもNG-seqのネガティブコントロールとして使用できますが、非特異的な結合によりゲノムの特定領域で濃縮が見られる場合があります。qPCR解析の場合は、インプットDNAを断片化せずに使用することができます。ただし、断片化されていないDNAは、フェノール・クロロホルム抽出とエタノール沈殿によって精製する必要があります。

実験開始前の準備:

! すべてのバッファーの量は、調製するインプットサンプルの数に比例して増加させる必要があります。

  • DNA Extraction Buffer#42015を取り出して室温で温め、完全に解凍されて液状になっていることを確認してください。
  • インプット1サンプルあたり、1X Wash Bufferを2.1 mL (10X Wash Buffer #31415 210 µL + Nuclease-free Water #12931 1.89 mL) 調製し、細胞へのストレスを最小限にするため、室温に戻してください。このWash Bufferには、スペルミジンやProtease Inhibitor Cocktail #7012を加える必要はありません。
  • インプット1サンプルあたり、次の混合液を調製してください: Proteinase K #10012 2 µL + RNAse A #7013 0.5 µL + DNA Extraction Buffer #42015 197.5 µL (インプット1サンプルあたり200 µL)
  1. 1.5 mLチューブ中に、検討するソニケーションの各条件に対して、CUT&RUN実験で使用するインプットと同じ数の細胞 (5,000 - 100,000細胞) を回収してください。組織については、各ソニケーション条件に対して、CUT&RUN実験で使用するインプットと同量の組織から単離した細胞を回収してください (セクションI-C、ステップ1-‭13‬) 固定した細胞や組織をCUT&RUN実験に使用する場合は、この試験でも同じ方法で細胞や組織の固定を行ってください。
  2. 600 x gで3分間、室温で遠心分離して、液体を除去してください。

    注意:使用細胞数が少なく (100,000細胞未満) 、遠心分離で集めた細胞ペレットが肉眼で確認できない場合は、下記ステップ3 - 5の洗浄操作を省略することを推奨します。ステップ2で細胞懸濁液を最初に遠心分離した後、ペレットを崩さない程度になるべく多くの培地を除去し、培地をいくらか残すことを推奨します。この場合、ステップ6で細胞懸濁液に適量の1X Wash Bufferを加え、各ソニケーション条件当たりの合計容量を100 µLにしてください。

  3. 1X Wash Buffer 1 mLを加えて、ピペッティングで静かに上下させて細胞ペレットを再懸濁してください。
  4. 600 x gで3分間、室温で遠心分離して、液体を除去してください。
  5. ステップ3と4を繰り返して、もう1度細胞ペレットを洗浄してください。
  6. 各ソニケーション条件あたり、1X Wash Buffer 100 µLを加え、穏やかにピペッティングで上下させて細胞ペレットを再懸濁してください。
  7. 細胞懸濁液100 µLを、各ソニケーションの条件ごとに新しいチューブに分注してください。

    注意:このサンプルは、ステップ9で55°Cでインキュベートします。インキュベート中の蒸発を低減させるため、セーフロックの付いた1.5 mLチューブを使用することを推奨します。

  8. 各サンプルにDNA Extraction Buffer (+ Proteinase K + RNAse A) 200 µLを加えて、ピペッティングで上下させて混合してください。
  9. チューブを55°Cで振盪しながら、1時間インキュベートしてください。
  10. チューブを氷上に5分間置いて、サンプルを完全に冷却してください。
  11. お使いのソニケーターでの最適なソニケーション条件を決定するには、15秒間のパルスソニケーションのサイクル数を増加させながら、タイムコース実験を実施してください。ソニケーション処理の合間は、サンプルを氷上に30秒間置いてください。
  12. 18,500​ x gで10分間、4°Cで遠心分離して、ライセートを清澄化してください。上清を新しい2 mLチューブに移してください。
  13. セクションVIに従って、DNAスピンカラム、またはフェノール・クロロホルム抽出とエタノール沈殿で、DNAサンプルを精製してください。
  14. カラムからDNAを溶出するか、DNAペレットを1X TEバッファーまたはNuclease-free Water #12931 30 µLに再懸濁してください。
  15. 電気泳動でDNA断片のサイズを決定してください。100 bp DNAマーカーと共に15 µL以上のサンプルを、1%アガロースゲルにロードしてください。ゲル上のDNAスメアを観察するため、色素フリーのローディングバッファー (30% グリセロール) の使用を推奨します。
  16. 最適なサイズである100 - 600 bpのDNA断片が得られるソニケーション条件を選択して、セクションIII、ステップ4のインプットサンプルの調製を実施してください。最適なソニケーション条件が得られない場合は、ソニケーターの出力設定あるいはソニケーションのサイクル数を増減させて、ソニケーションのタイムコース実験を繰り返してください。

C:トラブルシューティングガイド

問題 考えられる原因 推奨される対処法
問題 考えられる原因 推奨される対処法
1. 実験中にConcanavalin Aビーズが凝集する。 ビーズの凝集は正常で、通常はアッセイに悪影響を及ぼしません。 ピペッティングで静かに上下させて、凝集したビーズを再懸濁してください。サンプルチューブを回転させるのではなく、揺り動かすことで、ビーズの凝集とチューブ壁上での乾燥を防ぐことができます。
ビーズと細胞の室温でのインキュベート時間が長すぎます。 Concanavalin A磁気ビーズは4°Cで活性化し、細胞とのインキュベート時間は5分以内にしてください (セクションII、ステップ7)。
調製中に細胞が溶解しています。 細胞のストレスを最小限にするため、生細胞は室温でできるだけすばやく調製してください (セクションI)。
ジギトニンの濃度が高すぎるのかもしれません。 一部の細胞はジギトニンに対して感受性が高く、高い濃度では溶解する場合があります。アッセイに使用するジギトニンの量を減らしてください。ただし、使用する量が細胞の透過化に十分であることを確認してください (APPENDIX Aを参照)。
2. 精製されたDNAサンプルからPicoGreenによるDNA定量アッセイでDNAが検出されない。 20,000個以下の非常に少ない細胞数で実験を行なった場合には、これは一般的なことです。推奨されている100,000個の細胞を使用した場合には、DNAは検出されるはずです。 PicoGreenによるDNA定量アッセイを行なってください。使用する細胞数が少ないために、NanoDrop、Bioanalyzer®、またはTapestation®を使用しても、精製されたDNAは通常検出できません。
細胞が正しく計数されていないか、細胞が調製中に損失あるいは溶解しています。 使用する細胞の培養条件は60-90%コンフルエントで、健康 (生細胞が90%以上) である必要があります。自動化されたセルカウンターまたは血球計算盤を用いて、正確に細胞を計数してください。
細胞のストレスを最小限にするため、細胞は室温でできるだけすばやく調製してください。
細胞の損失を最小限にするため、細胞の洗浄はすべて1つのチューブで実施してください (セクション I)。
細胞が過剰に固定されています。 固定した細胞を使用する場合、軽い固定条件 (0.1% ホルムアルデヒド、 2 分間) を強く推奨します。いくつかの解離が難しい組織 (線維組織) では、軽い固定では最適の結果が得られない場合があります。その場合は、中程度の固定条件 (0.1%ホルムアルデヒド、10分間) を用いることができます。
使用細胞数が少なすぎます。 可能な限り、1反応あたり100,000個の細胞を使用してください。ヒストン修飾の解析には、最低5,000個の細胞が必要です。転写因子やコファクターに対しては、最低10,000個の細胞が必要です。
Concanavalin Aビーズの結合反応の際に過剰な培地が混入しています。 40%を超える培地が反応中に存在すると、Concanavalin Aビーズと細胞の結合が大幅に減少し、細胞が失われる可能性があります。細胞懸濁液を遠心して培地を除去し、1反応あたり40 µL以下になるようにしてください。Concanavalin Aビーズとの最適な結合のために、その後1X Wash Bufferを加えて100 µLになるようにします。
組織サンプルが完全に破砕されていません。 組織の塊が観察されなくなるまで、組織サンプルを破砕し、シングルセルの懸濁液にしてください。完全に解離させることが困難な線維組織を使用する場合は、組織の破砕中における細胞の損失を補うために、開始時の使用量を増やしてください。
ジギトニンが細胞を効果的に透過化していません。 使用していない時は、Digitonin Solution#16359を-20°Cで保管してください (-20°C以上では不安定になります)。
ジギトニンの量が、使用する細胞株の透過化に十分であることを確認してください (APPENDIX Aを参照)。
pAG-MNase酵素が適切に機能していません。 pAG-MNaseは非常に安定であり、20°Cで保管すれば長期間活性を維持できるはずです。
pAG-MNaseは活性にCa2+二価カオチンが必要です。酵素を活性化させるために、塩化カルシウムを加えてください (セクションIV、ステップ 8)。
30分間インキュベートして、酵素がクロマチンを十分に消化できるようにしてください (セクションIV、ステップ9)。
抗体がCUT&RUNで機能していません。 すべての抗体がCUT&RUNで機能するわけではありません。できる限り、CUT&RUNで検証済みの抗体を使用してください。ChIPあるいはIFで検証済みの抗体の一部も、CUT&RUNで機能します。
ポジティブコントロールのTri-Methyl-Histone H3 (Lys4) (C42D8) Rabbit mAb #9751を組み込み、アッセイが機能していることを確認してください。
3. qPCR解析あるいはNG-seq解析でシグナルがない。 問題2の全ての考えられる原因を参照してください。 問題2に対する全ての推奨される対処法を参照してください。
酵素消化の温度が低すぎる可能性があります。 酵素消化を氷上 (0°C) で行うと、標的クロマチン断片の回収量が有意に減少し、qPCRやNG-seqのシグナルも減少することが分かっています。酵素消化は冷却ブロック上または冷蔵庫内で、4°Cで実施してください。
PCRの増幅領域が、ヌクレオソームのない領域に及んでいる可能性があります。 CUT&RUNアッセイで生成されるDNA断片は、通常ChIPアッセイで生成されるDNA断片よりも小さくなります。そのため、60-80 bpの増幅産物を生成するプライマーをデザインすることが重要です。
qPCR反応に加えたDNA量が十分ではありません。 PCR反応により多くのDNAを使用するか、サイクル数を増加させてください。
NG-seq DNAライブラリーの調製に十分なDNAが加えられていません。 できる限り多くのDNAを使用し、最大20サイクルのPCR増幅を行なってください。
少ないDNA量を使用しますので、標準的なNGSライブラリー調製プロトコールに修正を加える必要があります。 CUT&RUN DNAライブラリー調製のための推奨プロトコールに従ってください (CUT&RUN Assay Kit #86652 セクションVIIIを参照)。これはChIP DNAライブラリー作製のプロトコールとは異なります。
4. qPCR解析あるいはNG-seq解析でバックグラウンドシグナルが高い。 サンプルの過酷な処理によって、ゲノムDNAが高度に断片化されています。 CUT&RUNアッセイでのバックグラウンドシグナルを決定するため、Rabbit (DA1E) mAb IgG XP® Isotype Control (CUT&RUN) #66362をネガティブコントロールとして常に使用してください。
DNAの断片化を最小限にするには、細胞を再懸濁する際に、激しいボルテックスと気泡の混入を避けてください。
細胞のストレスと溶解によって、ゲノムDNAが高度に断片化されています。 細胞のストレスを最小限にするため、細胞は室温でできるだけすばやく調製してください (セクションI)。
酵素消化の温度が高すぎる可能性があります。 酵素消化は冷却ブロック上または冷蔵庫内で、4°Cで行う必要があります。高温での消化は、バックグラウンドシグナルを大幅に増大させる可能性があります。
消化を開始する前に、事前にサンプルと塩化カルシウムを氷上で冷却するようにしてください。
大きな非特異的ゲノムDNAが上清に拡散し、標的の消化によって放出されたより小さな断片とコンタミネーションする可能性があります。 サンプルを 37°Cで10分間以上インキュベートしないでください。また、インキュベーション中にサンプルを振盪しないでください。(セクション IV、ステップ11)。消化された断片が上清に拡散するには、10分間で十分です。
qPCR解析の前に、AMPure® XP BeadsあるいはSPRIselect® Reagentキットを使用してサイズ選択をすることで、大きなゲノムDNA断片を除去できます。
NG-seq解析を行う場合、ライブラリー構築の際のPCR増幅時間を10 - 15秒間に短縮して、長いDNA断片の増幅を除外します。
使用する抗体が多すぎるため、非特異的な結合と消化が生じています。 可能な限り、CUT&RUNで検証済みの抗体を推奨された希釈率で使用してください。ChIPあるいはIFで検証済みの抗体は、多くの場合、ChIPあるいはIFに推奨された希釈率でCUT&RUNに使用できます。お使いの抗体を、タイトレーションする必要があるかもしれません。