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ニューロンとグリア細胞のマーカー

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ニューロンとグリア細胞のマーカー

パスウェイの説明:

中枢神経系 (CNS) の細胞と末梢神経系 (PNS) の細胞は、かつて病態解析において形態的な特徴に基づいて分類されていましたが、近年ではそれぞれの細胞に特異的なタンパク質を検出することで特定されています。これらマーカータンパク質の発現は遺伝子レベル、エピジェネティックレベルで複雑に制御されており、空間的、時間的な変化を正しく評価することは容易ではありません。胚発生におけるCNSやPNSの解析、成体におけるニューロンの新生の解析、神経変性疾患の病態解析に有効なバイオマーカーが多数見付かっており、これらの発現を正しく評価することが重要と言えます。

哺乳類の神経系におけるすべての神経細胞は、自己複製能と多能性の特徴を持つ神経幹細胞から分化します。発生段階において、これらの幹細胞は単相の神経上皮を形成し、これが神経板を構成します。神経板はさらに形態を変化させ管状の構造物 (神経管) を形成します。主にNotch1シグナル伝達によって、神経上皮細胞から放射状グリア、シュワン細胞と呼ばれる細胞が生じます。放射状グリア細胞 (RGC) は神経上皮細胞の性質を維持しており、特有の中間系フィラメントNestinや、Sox2 (SRY sex-determining region-box 2) を発現しています。これらは同時にアストログリア様の性質ももち、GLAST (glutamate aspartate transporter) や、カルシウム結合タンパク質S100β、BLBP (brain lipid-binding protein) といったアストロサイトに特異的なタンパク質も発現します。PNSにある未成熟シュワン細胞では、NCAM (neural cell adhesion molecule) とGFAP (glial fibrillary acidic protein) の高発現がみられます。さらに成熟化するとシュワン細胞は、ミエリン関連タンパク質 (例えばmyelin basic protein、MBP) の発現を増加させ、PNSの運動ニューロンと感覚ニューロンの髄鞘を形成するようになります。

放射状グリア細胞からは中間型前駆細胞が生じ、これがCNSのほとんどの成熟ニューロンの供給源になると考えられています。中間型前駆細胞は、Pax6 (paired box 6) を発現するのが特徴で、Pax6は神経幹細胞 (NSC) の増殖と分化を制御する多機能転写因子です。ニューロン新生の後期段階において、これらの細胞はDCX (doublecortin) やNeoroD1 (Neurogenic Differentiation Factor 1) を高発現し、ニューロンへの運命決定がなされた細胞の後期分化を誘導します。十分に成熟すると、哺乳動物のニューロンの細胞体にはNSE (neuron-specific enolase)、MAP2 (microtubule-associated protein-2) の発現がみられ、核にはNeuN (neuron-specific nuclear protein) の発現もみられます。注意点として、ゴルジ細胞、プルキンエ細胞、嗅球僧帽細胞、網膜視細胞、下オリーブ核ニューロン、歯状核ニューロン、歯状核ニューロン、交感神経節細胞などNeuNを発現しないニューロンもあることが挙げられます。成熟したニューロンは方向性 (求心性、遠心性、介在ニューロン)、他のニューロンや標的に対する作用 (運動ニューロンなど)、分泌パターン、神経伝達物質の産出などに基づき、さらに細かく分類されます。介在ニューロンはCalbindinとCalretininといったカルシウム結合タンパク質を発現するのに対し、運動ニューロンはホメオボックス遺伝子HB9を発現します。神経伝達物質を分泌するニューロンは、その生合成や分泌に必要となる、酵素やトランスポーターの発現で区別することができます。グルタミン酸作動性ニューロンではVGLUT1/2 (vesicular glutamate transporter 1/2)、GABA作動性ニューロンではGAD1/2 (glutamate decarboxylase 1/2)、ドーパミン作動性ニューロンではALDH1A1 (aldehyde dehydrogenase 1 family member A1) やTH (tyrosine hydroxylase)、セロトニン作動性ニューロンではTryptophan hydroxylase、コリン作用性ニューロンではChAT (choline acetyltransferase) の発現がそれぞれマーカーとして利用されています。

成体のCNSには、ニューロン以外にも脳が適切に機能するために必要な細胞があります。ミクログリア、オリゴデンドロサイト、アストロサイトなどです。ミクログリアは卵黄嚢由来の細胞であり、CNSの常在マクロファージです。これらは同じ中胚葉由来の骨髄細胞と類似した性質をいくつかもち、Integrin alpha M (ITGAM/CD11b) や細胞表面糖タンパク質F4/80の発現がその一つです。オリゴデンドロサイトはCNSの髄鞘形成に特化したグリア細胞の一種で、一般的にMOG (myelin oligodendrocyte glycoprotein)、MAG (myelin-associated glycoprotein)、MBP (myelin basic protein) の発現で特定されています。アストロサイトは髄鞘を形成しないグリア細胞で、オリゴデンドロサイトと同等の時間的および空間的パターンを持っています。成熟アストロサイトの最も特異的なマーカーはGFAPと、S100βの発現です。

特異的なバイオマーカーはアルツハイマー病 (AD)、パーキンソン病 (PD)、筋萎縮性側索硬化症 (ALS) など神経変性疾患の指標として利用することもできます。ADの病理学的特徴として、Amyloid-β (Aβ) のプラーク (アミロイド班) の形成と高度にリン酸化されたTauによる神経原繊維変化が広く知られています。PDの病理学的な特徴の一つとして、α-Synucleinタンパク質を包含したLewy小体の形成が挙げられ、これはドーパミン作動性ニューロンの欠落の原因としても知られています。また、家族性PDでは、PINK1 (SourcePTEN-induced putative kinase 1 ) やLRRK2 (eucine-rich repeat kinase 2) の変異が見出されています。上位および下位の運動ニューロンが侵されるALSには、SOD1 (superoxide dismutase 1)、TDP-43 (TAR DNA-binding protein-43) や、RNA結合タンパク質FUSの変異が関与していることが分かってきました。近年の研究で、ミクログリアは病態において特殊な分子署名 (網羅的な遺伝子の発現様式) をもつ亜集団を生み出すことが分かってきました。このような細胞はDAM (disease-associated microglia) と呼ばれています。DAMは二段階の成熟過程を経ます。最初のステップでは、TREM2 (triggering receptorexpressed on myeloid cells 2)、ApoE、Dap12の発現上昇と、P2ry12、TMEM119 (transmembrane protein 119) の発現低下が起こります。第2段階では、TREM2依存的にOsteopontin (Spp1) とCystatin 7 (CST7) の発現が上昇します。現在、DAMは主にADへの関与が見出されていますが、その他神経変性疾患とDAMの関連性も精力的に研究が進められています。

参考文献:

作成日:2018年9月
アセチル化酵素
アセチル化酵素
代謝酵素
代謝酵素
アダプター
アダプター
メチルトランスフェラーゼあるいはGタンパク質
メチルトランスフェラーゼあるいはGタンパク質
アダプター
アポトーシス/オートファジー調節因子
ホスファターゼ
ホスファターゼ
細胞周期の調節因子
細胞周期の調節因子
タンパク質複合体
タンパク質複合体
脱アセチル化酵素あるいは細胞骨格タンパク質
脱アセチル化酵素あるいは細胞骨格タンパク質
ユビキチン/SUMOリガーゼあるいは脱ユビキチン化酵素
ユビキチン/SUMOリガーゼあるいは脱ユビキチン化酵素
成長因子/サイトカイン/発生調節タンパク質
成長因子/サイトカイン/発生調節タンパク質
転写因子あるいは翻訳因子
転写因子あるいは翻訳因子
GTPase/GAP/GEF
GTPase/GAP/GEF
受容体
受容体
キナーゼ
キナーゼ
その他
その他
 
直接的プロセス
直接的プロセス
一時的なプロセス
一時的なプロセス
転座プロセス
転座プロセス
刺激型修飾
刺激型修飾
阻害型修飾
阻害型修飾
転写修飾
転写修飾