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老化のシグナル伝達

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老化のシグナル伝達

パスウェイの説明:

細胞老化は、複数の生理学的および病理学的なストレス要因によって誘導される適応応答であり、細胞周期の永続的な停止をもたらします。老化は、組織のホメオスタシスを維持し、損傷した細胞の隔離と除去による組織のリモデリングを可能にすることで、腫瘍形成を制限する防御メカニズムを提供します。ただし、永続的な老化細胞の蓄積は、加齢に関係する病状と炎症性疾患の主な原因となっています。50年以上前、Leonard HayflickとPaul Moorheadは、ヒト細胞は染色体の末端のテロメア領域の漸進的な短縮によって引き起こされるin vitroでの有限の増殖能力、すなわち複製老化を示し、これはDNA損傷応答 (DDR) を誘発し細胞周期の停止を引き起こす、という重大な発見を報告しました。同様に、細胞の老化は、放射線や化学療法薬によるDNA損傷、がん抑制遺伝子の欠失、活性酸素種の増加、ミトコンドリア機能障害に対する応答につながる可能性があります。これらの刺激は、サイクリン依存性キナーゼ阻害タンパク質 (CDKI) であるp16、p21、p27の活性化に収束する、DDR構成因子ATR、ATM、p53などを含む、多数の細胞内パスウェイを介してシグナルを伝達し、RB (retinoblastoma protein) の過剰なリン酸化をもたらして、最終的には、細胞周期からの離脱につながります。

老化細胞はもはや増殖しませんが、代謝的には活性なままであり、この状態に関連する特徴的な形態学的および生理学的な変化を示します。すなわち老化細胞は、in vitroでは肥大化し平たくつぶれた形状となり、ラミンB1の発現低下により核膜が不完全になっています。リソソーム活性の変化によるβ-Galactosidaseの蓄積は、細胞老化の特徴です。クロマチン再編成、特に老化関連ヘテロクロマチン形成 (SAHF) の形成は、がん遺伝子に誘導される老化を受けている細胞に頻繁に観察されるバイオマーカーであり、macroH2A、Hisone H3のLys9のジメチル化あるいはトリメチル化 (H3K9Me2/3)、HP1 (heterochromatin protein 1) の免疫応答性によって検出できます。ヒストンバリアントH2AX (γH2AXを形成) のSer139のリン酸化などのDNA損傷の指標は、老化を評価するための追加のバイオマーカーと組み合わせて調べることもできます。

老化細胞は、老化関連分泌表現型 (SASP) として知られる現象であるセクレトームにて、しばしば劇的な変化を示します。SASPは、多くの炎症誘発性サイトカイン (IL-6/IL-1βなど)、プロテアーゼ (MMP3)、周囲の組織の微環境にさまざまなオートクリン/パラクリン効果を及ぼす成長因子の発現増加と放出を伴います。SASPは細胞の状況に応じて、有益な効果と有害な結果の両方を持つと報告されています。たとえば、SASPは損傷細胞の除去を通じて組織の修復を開始するため免疫細胞をリクルートしますが、腫瘍細胞の進行を促進する血管新生とECMのリモデリングにも関連しています。

細胞老化とヒトの疾患における役割の根底にあるメカニズムを解明することは、加齢に関連した病態、組織のリモデリングと再生の促進、がんの治療に対して、幅広い治療的な意味を持ちます。

参考文献:

作成日:2019年9月

アセチル化酵素
アセチル化酵素
代謝酵素
代謝酵素
アダプター
アダプター
メチルトランスフェラーゼあるいはGタンパク質
メチルトランスフェラーゼあるいはGタンパク質
アダプター
アポトーシス/オートファジー調節因子
ホスファターゼ
ホスファターゼ
細胞周期の調節因子
細胞周期の調節因子
タンパク質複合体
タンパク質複合体
脱アセチル化酵素あるいは細胞骨格タンパク質
脱アセチル化酵素あるいは細胞骨格タンパク質
ユビキチン/SUMOリガーゼあるいは脱ユビキチン化酵素
ユビキチン/SUMOリガーゼあるいは脱ユビキチン化酵素
成長因子/サイトカイン/発生調節タンパク質
成長因子/サイトカイン/発生調節タンパク質
転写因子あるいは翻訳因子
転写因子あるいは翻訳因子
GTPase/GAP/GEF
GTPase/GAP/GEF
受容体
受容体
キナーゼ
キナーゼ
その他
その他
 
直接的プロセス
直接的プロセス
一時的なプロセス
一時的なプロセス
転座プロセス
転座プロセス
刺激型修飾
刺激型修飾
阻害型修飾
阻害型修飾
転写修飾
転写修飾