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免疫沈降のトラブルシューティングガイド

多くの場合、適切なコントロールや生化学的処理、条件などを検討して実験計画を練ることが、より良い結果を得るための最初のステップとなります。免疫沈降 (IP) 実験の計画の立て方の詳細については、CSTの免疫沈降実験ガイドラインをご覧ください。

問題

問題 考えられる原因 考察 推奨される対処法
シグナルが低い、または検出されない 厳しい細胞溶解条件によりタンパク質-タンパク質相互作用が妨げられる 共免疫沈降 (co-IP) 実験でシグナルが見られない場合、用いられた細胞融解バッファーが、タンパク質-タンパク質相互作用を妨げている可能性があります。Cell Lysis Buffer #9803およびRIPA Buffer #9806 は、どちらもウェスタンブロッティングに用いる全細胞ライセートの調整に適していますが、IPまたはco-IP実験には、Cell Lysis Buffer #9803のみを推奨します。RIPA バッファーは、イオン界面活性剤であるデオキシコール酸ナトリウムを含む、より強い変性バッファーです。この界面活性剤は、核膜を破壊し、更に細胞や膜の成分の可溶化を促進しますが、タンパク質の分解を防ぎ、免疫反応性には干渉しません。RIPAバッファーは、キナーゼを変性させ、タンパク質-タンパク質相互作用を妨げることが分かっているため、co-IPには適しません。

タンパク質間の相互作用の強さやなど、アッセイの結果に影響しうる多くの因子が存在するため、研究者は最適な結果を得るために、実験条件の調整が必要となる場合がよくあります。Cell Lysis Buffer #9803は、CSTがIP用に推奨するプロトコールと共に用いることにより、Co-IPの実験を適切に開始することができます。
前述のどちらの細胞溶解バッファーを用いる場合にも、ソニケーションが重要ですのでご注意ください。核を余すことなく破砕し、DNAを断片化することにより、タンパク質を最大限に回収することができます。ソニケーションは、特に核と膜タンパク質の抽出に重要であり、ほとんどのタンパク質複合体を破壊しません。

標的タンパク質が検出に十分なほど高発現しているサンプルであることや、標的に対する抗体が正しく機能しているかを確認するため、インプットライセートのコントロールを含めて実験してください。

IPの標的タンパク質に対する抗体を用いたブロット法により、IP実験が機能し、確実に一次タンパク質がプルダウンできることを確認してください。

  組織や細胞株におけるタンパク質の発現が低い IP実験でシグナルが見られない場合、IPまたは相互作用する目的のタンパク質の発現レベルが、ウェエスタンブロットにおける検出レベルに達していない可能性があります。

BioGPSThe Human Protein Atlasなどの発現プロファイリングツールや科学文献などを用いて、使用する細胞や動物組織において標的タンパク質が十分に発現していることをご確認ください。実験結果の確認のため、常に既知のポジティブコントロールを置くことを推奨します。実験コントロール調製法に、多くのCST抗体に推奨されるコントロールの一覧が記載されています。

標的タンパク質が検出に十分なほど高発現しているサンプルであることや、標的に対する抗体が正しく機能しているかを確認するため、インプットライセートのコントロールを含めて実験してください。

  リン酸化タンパク質や修飾タンパク質の発現レベルが低い 翻訳後修飾を受けたタンパク質の多くは、細胞株や組織では基本的に発現レベルが低くなっています。いくつかの標的では、ウェスタンブロットでの検出に必要な高発現を得るために、化学調節物質による追加的な処理か、特定の条件下で発現増加を促す必要があります。

PhosphoSitePlusを利用するなどして特定の修飾部位の参考文献を調べたり、コントロール調製法を利用してポジティブコントロールとして機能する細胞や組織とその処理法の例を調べることを推奨します。

細胞抽出物へのホスファターゼ阻害剤の添加は、タンパク質のリン酸化を維持するために必須です。セリン/スレオニンキナーゼホスファターゼ阻害剤として、溶解バッファーにピロリン酸ナトリウム (終濃度2.5 mM) やβ-グリセロリン酸 (終濃度1.0 mM) を加えてください。チロシンホスファターゼ阻害剤として、オルトバナジン酸ナトリウム (終濃度2.5 mM) を加えてください。Phosphatase Inhibitor Cocktail #5870Protease/Phosphatase Inhibitor Cocktail #5872 もご利用いただけます。

標的タンパク質が検出に十分なほど高発現しているサンプルであることや、標的に対する抗体が正しく機能しているかを確認するため、インプットライセートのコントロールを含めて実験してください。

  エピトープのマスキング エピトープマスキングとは、IPの標的タンパク質上の抗体結合部位が、ネイティブ条件下での標的の立体構造や他の相互作用タンパク質によって不明瞭となることを指し、IPのネガティブな結果につながります。 エピトープのマスキングが疑われる場合には、標的タンパク質の異なる領域のエピトープを認識する抗体を試みることが最善策となります。CST抗体のエピトープ領域に関する情報については、抗体の製品ページのSource/Purificationのセクションをご覧ください。
 
  IgGのビーズへの結合が弱い Protein AとProtein Gのビーズはどちらも問題なくラビット抗体またはマウス抗体に用いることができますが、CSTはラビット抗体にはProtein Aビーズ、マウス抗体にはProtein Gビーズを使用することを推奨します。なぜなら、Protein AビーズはラビットIgGにより高い親和性を有し、Protein GビーズはマウスIgGにより高い親和性を有しているからです。 IPに用いる抗体の宿主種に応じて、最適なビーズを選択してください。Protein A/Gを混合したビーズも、IgGへの結合を強めることができるかもしれません。
 
複数のバンドが検出される、または非特異的な結合がみられる オフターゲットタンパク質が、ビーズまたはIgGコントロールへの非特異的に結合する IP実験で、バックグラウンドとして非特異的な結合が観察される場合、オフターゲットのタンパク質が、ビーズ上のProtein AまたはGに結合、またはIgGに直接結合している可能性があります。

ビーズのみのコントロールは、IP実験におけるすべての非特異的なタンパク質-ビーズ相互作用を検出するための、追加のネガティブコントロールとして機能します。ビーズのみのコントロールを用いた実験でバックグラウンドが観察される場合、ライセートの前処理が必要かもしれません。IP実験の前に、前処理としてライセートにビーズのみを加え、4°Cで30-60分間インキュベートします。

バックグラウンドの原因が、IP抗体のIgGへの非特異的なタンパク質の結合によるものかを確認するために、アイソタイプコントロールを含めることも可能です。

  アイソフォームの反応性または翻訳後修飾

細胞株や組織モデルによっては、複数のタンパク質アイソフォームやスプライシングバリアントを含むものがあり、移動度の異なる様々な分子量として検出されることがあります。

翻訳後修飾 (PTM) によって、標的タンパク質の一部の移動度が未修飾のタンパク質に比べて変化する場合があります。このように、使用するサンプルや処理によって、ウェスタンブロットで複数のバンドが現れる翻訳後修飾の例として、グリコシル化、SUMO化、ユビキチン化、リン酸化などが挙げられます。

複数のバンドの原因が、抗体への結合によるものかを確認するため、インプットライセートコントロールを含めて実験してください。複数のアイソフォームの検出が予想される、あるいは確認されているかどうかは、抗体のウェブページのSpecificity/Sensitivityのセクションを参照してください。また、UniProtで標的タンパク質を検索し、複数のアイソフォーム配列が記載されているかどうかを確認することもできます。

PhosphoSitePlusをご覧いただくことで、標的タンパク質のPTMの詳細情報を確認することができます。

インプットコントロールではバックグラウンドが観察されない場合、ビーズまたはIgGへの非特異的な結合が原因かもしれません。この場合、複数のバンドの原因を特定するため、ビーズのみ またはアイソタイプコントロールを用いる必要があります (上のセクションをご参照ください)。

IgGによる標的シグナルのマスキング IgGの重鎖または軽鎖により、標的のシグナルが覆い隠される IPの後に、ウェスタンブロッティングを行う場合には注意が必要です。IPに用いられた一次抗体の、変性したIgGの軽鎖および重鎖は、ウェスタンブロット上では、それぞれ、約25 および50 kDであり、し同様の分子量の標的タンパク質のバンドを覆い隠してしまうことがよくあります。IPとウェスタンブロットの両方で、同じ宿主動物の抗体を使用することが原因です。ウェスタンブロットに用いる二次抗体は、一次抗体のインキュベーションに用いる、自然な状態のIgGを検出するだけでなく、IPに用いる抗体の、変性した重鎖および軽鎖も検出します。

この結果を回避するために、いくつかの方法があります。

IPとウェスタンブロットで、異なる種の抗体を用いる。例えば、IPにラビット抗体を用い、ウェスタンブロットにはマウス抗体を用いるか、またはその逆とします。二次抗体は、種特異的である必要があることにご注意ください。CSTは、Anti-rabbit IgG, HRP-linked Antibody #7074およびAnti-mouse IgG, HRP-linked Antibody #7076を用いて試験しており、それぞれ、ラビットとマウスに対して高い特異性を示します。これらの二次抗体では、種交差反応性は観察されていません。

ウェスタンブロットには、同じ種のビオチン化した一次抗体を用います。ビオチン化した抗体は、Streptavidin-HRP #3999により検出されますが、変性したIgGとは交差しません。

標的が25 kDa付近に移動しない場合は、軽鎖に特異的な二次抗体を用いることができます。CSTは、Mouse Anti-Rabbit IgG (Light-Chain Specific) (D4W3E) mAb (HRP Conjugate) #93702およびRabbit Anti-Mouse IgG (Light Chain Specific) (D3V2A) mAb (HRP Conjugate) #58802をご提供しています。

ウェスタンブロットの二次抗体には、自然な状態のIgGに優先的に結合する、CSTのProtein A (HRP Conjugate) #12291をご利用ください。しかし、高濃度の#12291は、変性したIgGと交差する可能性があることにご注意ください。

また、ウェスタンブロットには、立体構造に特異的な二次抗体を用いてください。CSTは、自然な立体構造のIgGに優先的に結合する、Mouse Anti-Rabbit IgG (Conformation Specific) (L27A9) mAb #5127をご提供しています。しかし、高濃度の#5127もまた、変性したIgGと交差する可能性があることにご注意ください。