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InTraSeqシングルセル解析の概要

RNA及びタンパク質内の細胞亜集団を特定するCD4+およびC8+クラスター可視化。 RNA及びタンパク質内の細胞亜集団を特定するCD4+およびC8+クラスター可視化。
単離したCD4陽性およびCD8陽性の細胞集団を、細胞内および主要なシグナル伝達経路に含まれるタンパク質に対する抗体を用いてInTraSeqで解析し、RNAのみの研究では困難な細胞状態を特定しました。InTraSeqアッセイでは、PTMや細胞内タンパク質の発現レベルをシングルセルレベルで測定することにより、細胞の亜集団に関するさらなる知見が得られます。そのため、疾患の発症機構のより深い理解が可能になります。

今までは得られなかった情報を取得

InTraSeq (Intracellular protein and Transcriptomic Sequencing) は、たった1回の実験で、疾患の発症に関わるシグナル伝達経路の特定や分子メカニズムの解明を可能にする、CSTが開発した新たな技術です。この技術は、数千個の細胞におけるRNAだけでなく、細胞内および細胞表面の両方のタンパク質を同時検出できるため、シングルセルレベルのトランスクリプトームを用いたシグナル伝達経路の調査を可能にします。

InTraSeqの以下の能力により、細胞生物学をより深く理解できます:

  • 従来のscRNA-seq (single-cell RNA sequencing) では得られなかった生物学的知見を取得可能
  • 転写と翻訳間の動態に着目したシングルセルレベルのデータセットを取得可能
  • 翻訳後修飾 (PTM) のシングルセルレベルの定量により細胞シグナル伝達のメカニズムを解明可能

CSTが開発および検証したInTraSeq 3’技術は、10x Genomics社のChromium Single Cell 3' Reagentキットとフィーチャーバーコード標識技術を使用しています。

InTraSeqが他とは異なる点

InTraSeq™単一細胞解析が、堅牢なRNAシグナルを保証しつつ表面および細胞内タンパク質を検出するのに対し、他の技術では単一細胞アッセイで細胞内タンパク質を補足するのにRNAの完全性が犠牲になっている様子を示した画像。
A) 現在利用可能なシングルセル解析技術の多くは、RNAの検出と、表現型解析用としてバーコード標識抗体を用いた細胞表面タンパク質の測定を行います。B) 多くの企業が、RNAと細胞内タンパク質を同時に検出する方法の開発を試みていますが、これらの方法は通常、RNAの著しい損失と分解が生じます。C) InTraSeqシングルセル解析は、細胞内のRNAレベルを維持したまま、RNAと細胞内および細胞表面のタンパク質を検出できます。

現在利用可能なシングルセル解析技術の多くは、RNAのみの検出、できたとしてもRNAと細胞表面マーカーの同時検出であるため、表現型解析に限界があります。さらに、遺伝子発現解析のみのシングルセル解析技術では、疾患状態または薬理学的摂動において活性化される重要なシグナル伝達カスケードの決定および測定は不可能です。InTraSeq技術は、トランスクリプトームやタンパク質、翻訳後修飾の定量を1つのアッセイに統合することにより、たった1回の実験で、表現型解析だけでなく、細胞状態の違いを区別するための細胞メカニズムの解明を可能にします。InTraSeq技術を用いることにより、科学者は、遺伝子発現の変化と共に複数のシグナル伝達経路を容易に探索することできるため、生理学的応答の根底にある主要な分子メカニズムを効率的に特定し、下流のタンパク質修飾を発見できます。

細胞内タンパク質と翻訳後修飾のシングルセル解析 (SCA)

scRNA-seq (single-cell RNA sequencing) は通常、薬理学的摂動や環境的摂動への細胞応答の決定に使用されます。しかし、タンパク質の発現レベルは、必ずしも直接RNAの発現レベルと相関するわけではなく、複雑な生理学的システムの理解を困難にします。シングルセルにおけるタンパク質発現と翻訳後修飾のレベルが、遺伝子の発現レベルとはどのくらい異なるのかを決定することにより、scRNA-seqでは得られない、シグナル伝達経路の活性化に関する機能的な知見を取得できます。

翻訳後修飾 (PTM) は、タンパク質の活性や寿命、発現レベルを変化させます。遺伝子発現とタンパク質活性の相互作用を理解することは、複雑な生物学的システムの根幹にある細胞の不均一性と機能を決定するために極めて重要です。InTraSeq 3'用標識抗体カクテルは、ヒトおよびマウスの両方に結合する、弊社の最も人気の高い31抗体で構成されており、これらにはPTM抗体も含まれます。そのため、科学者は、数十種類もの重要なシグナル伝達タンパク質を、たった1回のアッセイで均一におよび簡単に定量できます。

PTMとmRNAのシングルセルレベルの同時定量

多くの細胞では、タンパク質とRNAは似た発現レベルがみられますが、いくつかの細胞では、最終的なタンパク質発現や薬理学的摂動または環境的摂動後のタンパク質の活性を調節する修飾を受けたタンパク質の発現レベルがRNAレベルと異なっています。RNAやタンパク質、翻訳後修飾の同時定量は、RNA発現だけの解析では解明できない、複雑な生物学的相互作用のより全体的な理解を促進します。

RNAとタンパク質の発現レベルは必ずしも相関するわけではない
mRNAとタンパク質の発現量を示す散布図グラフ。 mRNAとタンパク質の発現量を示す散布図グラフ。
InTraSeqシングルセル解析を用いてmRNAと細胞内タンパク質を同時定量した結果から、mRNAとタンパク質のレベルが必ずしも相関するわけではないことが分かります。

InTraSeqシングルセル解析の利点

合理化されたワークフローで作業時間を短縮可能

簡単な4ステップのプロトコール
本文中の他の箇所で説明したInTraSeqプロトコールの4つのステップを示す画像。
InTraSeq 3’アッセイキットは、最小限の作業時間で実施可能な簡単なプロトコールで、mRNAとタンパク質の正確なシグナルが得られるように最適化されています。安全に実験を停止できる便利な2つの停止ポイントにより、柔軟な実験とサンプルの保存が可能となり、ワークフローの柔軟性を最大化できます。

InTraSeqのプロトコールでは、作業時間は約1時間であり、複数の停止ポイントが存在するため、シングルセル解析時間の柔軟性を最大化できます。サンプルは、固定ステップ後、RNAの完全性を失うことなく最大7日間保存できます。InTraSeqは、これまでのシングルセル解析プロトコールとは異なり、1日かけて行う長時間のプロトコールのために人員や機器を調整する必要はありません。サンプルの長期保存が可能なため、大量のサンプルの処理やシングルセル解析用の処理のプロトコールを、品質を損なうことなく連続した日に実施することができ、ハイスループットへの応用も容易になります。

簡単な免疫染色プロトコールには、以下のステップが含まれます:

ステップ1: 細胞を一晩固定

  • 作業時間は5分以内
  • 細胞は、冷蔵庫内で最大7日間保存可能

ステップ2: scBlock中でインキュベート

  • 作業時間は10分以内
  • このステップは、RNAとタンパク質のシングルセルレベルの優れたシグナルが得られるように最適化済み

ステップ3: CST® InTraSeq 3’用標識抗体カクテルを添加し、一晩インキュベート

  • 作業時間は5分以内

ステップ4: 細胞の洗浄

  • 作業時間は20分以内
  • 細胞数をカウントし、すぐに10x Genomics社のChromium Single Cell 3’ Reagentキットに移行可能

正確なRNAシグナルを確保したまま細胞内タンパク質のシグナル伝達を調査可能

シングルセルのマルチオミクス実験におけるRNAの完全性を確保することは、長期にわたる重要な課題です。多くのシングルセル解析では、細胞にとって過酷な条件となる化学薬品を使用して膜を破壊するため、RNAの分解および損失が生じます。InTraSeq試薬は、穏やかに細胞膜と核膜の透過化を行えるように、厳密に最適化されています。これにより、標識抗体は、アッセイ全体を通して、RNAレベルを維持したまま細胞内に侵入して標的に結合できます。そのため、RNAとタンパク質の両方の発現を正確に定量できます。

InTraSeqは、生細胞コントロールと同等レベルの転写産物量をサンプル中に保存可能
生PMBCとInTraSeq PMBCの発現量を比較した2つの並列散布図グラフ。 生PMBCとInTraSeq PMBCの発現量を比較した2つの並列散布図グラフ。
  PBMC (生細胞) InTraSeqで調製したPBMC
Relative Median Genes/Cell (matched reads/cell) 100% 86.2%
Fraction Reads in Cells 94.9% 85%
Antibody Reads in Cells N/A 60%
Reads Mapped Confidently to Genome 89.9% 85.5%
PMBCの生細胞とInTraSeqで調製したサンプルを定量し、発現している遺伝子の平均値を算出しました。InTraSeq試薬は、PBMCなどの解析が困難な細胞の生細胞における遺伝的プロファイルを保持しており、mRNAの損失を最小限に抑えています。

均一なカバレッジ深度で検出困難な細胞を特定可能

InTraSeqシングルセル解析技術は、シングルセルレベルの遺伝子発現の解析と並行して細胞内および細胞表面のタンパク質の両方を検出および定量し、不均一な細胞集団を細分化する能力により成立します。細胞表面タンパク質のみを検出するCITE-Seqとは対照的に、InTraSeqは、複雑な細胞内シグナル伝達経路を均一に研究するためのツールを科学者に提供します。

InTraSeqは細胞の不均一性を維持
生PBMCとInTraSeqプロトコール後のPBMCを比較したカラフルなUMAP視覚化。サンプル間で各細胞タイプの割合が一貫しており、mRNAが保存されていることを示しています。
InTraSeqプロトコール実施前後での、同じドナーから得られたPBMC集団に含まれる細胞タイプをUMAPで解析した結果を示しています。2つのUMAPプロット図から、各細胞タイプの割合は同等であり、InTraSeqプロトコールの影響を受けていないことが分かります。

1回の実験で複数の分子メカニズムを探索可能

細胞内シグナル伝達と翻訳後修飾用の抗体に関するCSTの知識とInTraSeq技術を組み合わせることにより、研究者は、細胞内や核内、細胞表面のタンパク質の複雑な相互作用と遺伝子発現を同時に研究して定量することができます。トランスクリプトミクスの変化と翻訳後修飾を含むタンパク質の発現の同時測定は、他のアッセイでは得られない、複雑なシグナル伝達システムの知識に富んだより包括的なデータセットの作成を可能にし、疾患の発症機序への理解を深めることができます。

細胞内タンパク質のシングルセルレベルの解析データを用いたCD4陽性およびCD8陽性の細胞集団における細胞状態の特定
RNA及びタンパク質内の細胞亜集団を特定するCD4+およびC8+クラスター可視化。 RNA及びタンパク質内の細胞亜集団を特定するCD4+およびC8+クラスター可視化。
単離したCD4陽性およびCD8陽性の細胞集団を、細胞内および主要なシグナル伝達経路に含まれるタンパク質に対する抗体を用いてInTraSeqで解析し、RNAのみの研究では困難な細胞状態を特定しました。InTraSeqアッセイでは、PTMや細胞内タンパク質の発現レベルをシングルセルレベルで測定することにより、細胞の亜集団に関するさらなる知見が得られます。そのため、疾患の発症機構のより深い理解が可能になります。

InTraSeq 3'用標識抗体カクテルには、2種類の細胞表面タンパク質と、29種類のPTMを含む細胞内タンパク質を標的とする、合計31種類の検証済み抗体が含まれます。この抗体カクテルは、免疫学やがん研究で日常的に調査されるシグナル伝達経路に沿ったタンパク質の均一な定量ができるように設計されており、正確で信頼性の高いデータセットを提供します。

RNAとタンパク質と相関するPTM量を示すPhospho-Stat3 (Ser727) ヒートマップおよびRNAとタンパク質に相関するPTM量を示すPhospho-p44/42 MARK (Erk1/2) (Tyr202/Tyr204) ヒートマップ。 RNAとタンパク質と相関するPTM量を示すPhospho-Stat3 (Ser727) ヒートマップおよびRNAとタンパク質に相関するPTM量を示すPhospho-p44/42 MARK (Erk1/2) (Tyr202/Tyr204) ヒートマップ。
LPSで刺激したPBMCをInTraSeqアッセイキットで調製し、RNAやトータルタンパク質、PTMを、scRNA-seqとInTraSeq 3'用標識抗体カクテルを用いて定量しました。このヒートマップは、刺激前後のStat3MAPKのPTMレベルと、リン酸化レベルの変化と相関するRNAとタンパク質の発現レベルを示しています。

InTraSeqはどのようにお客様の研究に役立つか?

InTraSeqは、新たなプロジェクトを開始する際の、独特で強力なスクリーニングツールとなります。この技術は、どのシグナル伝達経路が変化しているかを特定し、どこに焦点を当てるべきかを決定するのに役立つ、均一なアプローチを提供できるため、研究者は、特定の遺伝的表現型を理解できます。

また、PTM応答はmRNA合成よりも先に起こるため、InTraSeqは、短時間 (20分未満) に生じる急性の細胞障害も測定できます。このような急性の応答は、他のRNAのシングルセル解析では測定できないため、いかにInTraSeq技術が重要であり独特であるかが分かります。

CSTの検証済みInTraSeq 3'用標識抗体カクテルで信頼できる結果を取得

CSTの科学者は、一貫性のある、質の高い結果を提供できるように、すべてのInTraSeq抗体と試薬を厳密に検証および最適化しています。InTraSeq 3'用標識抗体カクテルは、含まれるすべての抗体と試薬が最適な濃度になるように調製されており、すぐに実験に使用可能です。InTraSeqを用いることにより、科学者は、時間のかかる最適化実験を行うことなく、信頼できるデータを取得できます。

InTraSeqシングルセル解析用の製品ラインナップ

下記よりお客様のワークフローに適したソリューションを見つけてください。

InTraSeq 3'用標識抗体カクテル

一般的なシグナル伝達経路に含まれるタンパク質に対する31種類の一次抗体が含まれており、ヒトとマウスの両方に交差します。

InTraSeq 3'アッセイキット

シングルセル解析用に特別に調整されたバッファーのキットです。

InTraSeq 3'用標識抗体

InTraSeq 3'用標識抗体カクテル1 (ヒトおよびマウスに交差性あり) には、31種類の3'用標識抗体が含まれますが、これらは個別でもご購入可能です。さらに、弊社は、カクテル1には含まれない7種類のInTraSeq 3'標識抗体 (ヒトに交差性あり) も提供しています。

細胞表面の標的 種交差性 カクテルに含まれるかどうか
CD3 (UCHT1) Mouse mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3028) H No
CD4 (RPA-T4) Mouse mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3029) H No
CD8α (SK1) Mouse mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3030) H No
CD19 (Intracellular Domain) (D4V4B) XP® Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3010) H, M Yes
CD68 (D4B9C) XP® Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3012) H No
NCAM1 (CD56) (E7X9M) XP® Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3025) H, M Yes
T-bet/TBX21 (D6N8B) XP® Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3009) H No
細胞内の標的 (PTM以外) 種交差性 カクテルに含まれるかどうか
Aiolos (D1C1E) Rabbit mAb #15103 (InTraSeq 3' Conjugate 3027) H, M Yes
FoxO1 (C29H4) Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3037) H, M Yes
GAPDH (14C10) Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3007) H, M Yes
Iba1/AIF-1 (E4O4W) XP® Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3003) H, M Yes
Ikaros (D6N9Y) Rabbit mAb #14859 (InTraSeq 3' Conjugate 3026) H, M Yes
NFAT1 (D43B1) XP® Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3032) H, M Yes
S100A9 (D5O6O) Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3004) H No
TCF1/TCF7 (C63D9) Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3013) H, M Yes
Vimentin (D21H3) XP® Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3011) H, M Yes
アイソタイプコントロール 種交差性 カクテルに含まれるかどうか
Mouse (G3A1) mAb IgG1 Isotype Control (InTraSeq 3' Conjugate 3001) H No
アッセイキットに含まれるコントロール (単体販売していません) 種交差性 カクテルに含まれるかどうか
Histone H3 (D1H2) XP® Rabbit mAb (InTraSeq 3' Conjugate 3002) H, M No
Rabbit (DA1E) mAb IgG XP® Isotype Control (InTraSeq 3' Conjugate 3000) H, M No

テクニカルサポート

テクニカルサポートページで、InTraSeqシングルセル解析に関連するトラブルシューティング情報や技術的な質問に対する答え、弊社へのお問い合わせ方法をご覧ください。

Cell Signaling Technology, CST, and InTraSeq are trademarks of Cell Signaling Technology, Inc. All rights reserved. 10x Genomics, 10x, Feature Barcode, and Chromium are the trademarks or registered trademarks of 10x Genomics, Inc. All other trademarks are the property of their respective owners. Visit cellsignal.com/trademarks for more information.
Subject to patents licensed from 10x Genomics, Inc., for use with single-cell (i.e., Chromium) 10x products.