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抗体ベースの神経変性疾患研究技法

神経変性疾患の研究において、サンプルから最大限に情報を得るには次のようなことを十分に考慮して研究を進めることが重要です。

  • 研究で明らかにすべき課題
  • 解析に供することができるサンプルの種類 (血清、骨髄液、尿、脳組織など)
  • サンプルの解析に利用できる技法

これらを事前に検討し照らし合わせておくと、貴重なサンプルを無駄なく利用し、それぞれの実験から最大限の情報を取得できるようになります。

脳組織や脊髄組織の解析

神経変性疾患の研究には、基本的な細胞生物学と分子生物学的手法、電気生理学的アプローチ、抗体を利用した生体内原位置 (in situ) イメージングなど、様々な技法が利用されています。

抗体技術を応用したニューロン・グリア細胞の解析

免疫組織化学染色 (IHC) と免疫蛍光染色 (IF)

死後組織検体を組織染色に供し、解析対象のタンパク質を可視化することで、細胞内局在やタンパク質同士の相互作用などの有益な情報が得られます。

個々のニューロン・グリア細胞集団を、軸索、樹状突起、受容体、内包する神経伝達物質に基づいて単離し特性解析をすることができます。さらに、病態において変化したタンパク質を選択的に追跡し特性解析することもできます。

最適な組織染色結果を得るために、中枢神経系の組織サンプルの調製は注意深く行う必要があります。齧歯類の解析を行う場合、質の高い神経病理学的解析を行うために神経解剖学的な知識が重要であり、いくつか簡単な追加ステップを考慮する必要があります。迅速かつ完全に脱血し、脳組織を丁寧に切除して迅速に固定剤へ浸漬することが重要です。脊髄は、シリンジを使って尾側から頭側まで無傷のまま採取することができます。

組織サンプルは多くの場合、凍結切片作成用包埋剤 (OCT medium) 中で急速冷凍するか (IFで解析する場合)、パラフィンで包埋する (IHCで解析する場合) ことで調製します。これらの組織サンプルは切片化し、染色の手順に移る前にスライド上で風乾します。

免疫組織化学染色 (IHC) は、H&E染色と組み合わせ、解剖学的および形態学的検診にも用いることができます。H&E染色したスライドを、FITCフィルターを通して観察した場合にみられる自家蛍光は、変性ニューロンの指標となりますが、Fluoro Jade B染色はより高感度に変性ニューロンを検出することができ、樹状突起や軸索が染色されます。LFB-Holmes Silver染色はミエリンと軸索を可視化することができます。アストロサイトのマーカー (GFAP) や、ミクログリアのマーカー (CD68およびIBA1) を染色することで、炎症を可視化することもできます。

個々の抗体のアプリケーションごとの特質を理解することも重要です。すなわち、ウェスタンブロットで期待通りに機能する抗体が、必ずしもIFで機能し、標的の局在性を正しく示すとは限らない点に注意する必要があります。したがって、抗体の特異性の検証はアプリケーションごとに適切な方法で行うことが重要です。また、イメージングシステムに合致した一次抗体、二次抗体、蛍光色素の組み合わせを選定することも重要です。

マウスやヒト組織のIHCにラビットモノクローナル抗体を用いることには数多くの利点があります。例えば、親和性と特異性が高くなり、バックグラウンドが低減し、他の種からの抗体と交差反応する可能性が低いなどです。

GFAP免疫蛍光染色

ラット小脳組織を、GFAP (D1F4Q) XP® Rabbit mAb (緑) とNeurofilament-H (RMdO 20) Mouse mAb #2836 (赤) を用いて免疫蛍光染色し、共焦点顕微鏡で解析しました。DRAQ5 #4084 (蛍光DNA色素) は、青の疑似カラーで示しています。

免疫細胞化学染色 (ICC)

脳、脊髄、脳脊髄液から単離した初代細胞や、iPSC (induced pluripotent stem cell) を用いてICCで解析することもできます。適切な基質でコートしたスライドに細胞を張り付けて固定し、透過化処理、ブロッキングを行なった後、染色します。多重染色によるマルチプレックス解析を行う場合は、励起波長と蛍光フィルターの特性に細心の注意を払い、スペクトルの重複を最小限に抑えることが重要です。

フローサイトメトリー

フローサイトメトリーは、ApoE4やAβ複合体などの神経変性疾患に関与する微小粒子やリポタンパク質粒子の解析を行うために利用されています。さらに、神経疾患における細胞のタイプを免疫表現型解析で詳細に分析し、炎症促進性/抗炎症性サイトカインの産生を解析することもできます。

ELISA

関与するタンパク質が非常に複雑であること、血中濃度が低く感度の問題があることなどから、神経伝達物質や炎症促進性/抗炎症性サイトカインをELISAで検出することが主流となっています。これらの情報を神経炎症の病態解析などに利用します。